収穫祭の時は賑やかだったこの道も、今の時間はもう誰もいない。
リンリンと夜更かしな秋の虫たちが歌を歌っている。
収穫祭は終わったというのに、虫たちはまだ祭を続けているようだ。
こくんと船をこいで落ちそうになったルーミィを背負いなおし、ふぅと息をつく。
同時に息は白くなり空へと舞い上がる。
息を追い空を見上げると満天の星空が俺達を見下ろしていた。
「うにゅぅぅ?」
もぞもぞっと背中が動くと同時に耳元に眠そうな声。
しまった。ルーミィを起こしてしまった。
彼女をみると、とろんとした視線で俺を捕らえた。
「……くりぇー、おまちゅりは?」
「終わったよ。」
「……えぇぇぇぇ…ふぁああああああぅぅ。」
不満そうな声を出したが、まだ眠いのだろう。
大あくびをする口からちらりと小さな牙が見えた。
ルーミィに牙があるはずはない。
じゃあ、なんで牙が見えたのかと考えればすぐに答えはでた。
彼女が祭のイベントでドラキュラに扮していたから。
着替えてないのは分かっていたが、まさか口の中までまだドラキュラのままだったのか。
子供用のマウスピースとは言え、このままでは怪我をしてしまうだろう。
「ルーミィ、マウスピース、取らないと危ないよ。」
「……まうしゅ??」
「ああ、牙だよ。ドラキュラの牙。ちゃんと口から出しなさい。」
俺はルーミィをおぶっていた両手のうち片手を空けて、彼女の口にある牙に手を伸ばす。
が、しかし、ぷぃっとそっぽを向かれてしまった。
「やぁぁーらぁぁ。といっく、おあ、といいいいいいと!!」
「へっ!?」
「おかし、くえなきゃ、いたずら、するおぅ!」
この台詞は……祭で言っていたやつだな…
…あぁ、ルーミィもまだお祭の続きをしたいのか。
今回収穫祭で取り入れられたイベントはルーミィには本当に魅力的だったもんな。
なにしろ、大好きなお菓子がたくさんもらえるのだから。
先ほどまでとろんとした瞳がキラキラと輝いている。
お菓子を貰えると信じきったブルーアイが俺を映している。
……だけど、残念。
「トリック。いたずらで。」
そう言って俺は再び彼女の口から牙を奪おうとしたが、またそれは叶わなくて。
「…ふぉっぁっ!?」
刺激が首にはしる。
いや、刺激と表現するには可愛らしいか。
見えないけれど、きっと俺は小さなドラキュラに噛み付かれてしまったんだ。
「くすぐったいよ。」
そう言うと、ルーミィは首元から口を離して、
「いたずら、だおぅ。ちぃ、すぅもん!」
と宣言してかぷりと再び俺の首に噛み付く。
「はいはい、痛いなぁぁぁー。ドラキュラ怖いなぁーぁ。」
思わず笑いそうになるのを我慢しながら、俺は帰路の足を再び動かした。
首もとの刺激はなくなり、ぶぅぅぅと左耳から不服そうな声が入る。
でも、その声はすぐに終わった。
「くりぇぇー。いま、何時?」
「え?」
「何時?」
そんなことを聞かれても、困る。
時計なんて高級な物を持っているはずもなく、俺は慌ててキョロキョロと周りを見渡した。
運よく公園の時計が目に入った。
あぁ、もう日付が変わっている。
……いや、変わったばかりか。
「もう12時。日付が変わったよ。ルーミィ、ドラキュラの時間は終わりだよ。」
外灯下に足を止めてルーミィを降ろす。
「はい、もう牙、取ろうな?あーんして。」
ドラキュラのマウスピースを外す理由ができたチャンスだったのに。
彼女が口をあけて発した言葉に、それを逃してしまった。
「くりぇー、おたんじょうび、おめれとう!」
「……!?」
「自分のなのに、おぼえて、ないの?」
呆れたようなルーミィの笑顔に、祭ですっかり忘れてしまった自分自身の誕生日を思い出した。
そういえば……今日だっけ。
「……ごめん、忘れてた。でも、思い出した。ありがとう、ルーミィ。」
彼女に伸ばした手を頭にぽんと置いて撫でてやると、
「いちばん!いちばんに、いえた!」
嬉しそうに俺を見上げ、小さな牙をきらりと輝かせにこりと笑った。
自然と体が火照っていくのに気づき、慌てて首を振り熱をはらう。
小さな牙を見せて笑う心を乱すこのモンスターはドラキュラというよりまるで………
ハッピーバースディ……?
―――― 俺の中に芽生えた気持ちにどうか、今はこの言葉を贈らせて。
ファイル作成日:2011年11月 5日
2011年クレイ誕生日に思い浮んだクレルーです。
何度か推敲してこの形になりました。
クレルーは説明をさせるのではなく、仕草や音など中心に書いていき、
状況を想像させる、を目標に書いていきたいなぁと。
あと、クレイが限りなくキャラ崩壊してます。
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