〜ケーキをおっかけろ〜



「腹へったぁ…。」
ぐてっと、転びこむトラップ。
「ルーミィもおなかぺこぺこだおう…」
そのおなかの上へぽてっと転ぶルーミィ。
そして、クレイも、キットンも、ノルも、わたしも同時にへたりこむ。
『おなかすいた…』
同時に口からでる言葉。

空をみあげるとまるでショートケーキのような雲が見えた。
ううぅ、フルーツケーキ食べたい。
ううん。なんでもいい。おなかいっぱい食べたい。
みんなきっとそう。
だって丸一日なにも食べてないんだもの。

どうしてこんなことになったかって?
うぅ、それはわたしの責任なんだよね。
オーシにたのまれたおつかい。
行きは迷わずにつけた。
とっても簡単な行程だったし、帰りも迷わないだろうってみ〜んな思った。
だから予備の携帯食も買わなかった。
これが大失敗!
帰りの行程で迷ってしまったんだ。
どこかで右と左を間違えてしまったんだろう。
気の緩みで誰も気付かなかった。
どんどん、見たことのない景色になってきて、気づいたときはもう遅かった。
あっというまに夜になり、あっというまに携帯食がつきたのだ。

「ったくよぉ、うちのマッパーは仕事さぼってんのかぁ?」
なぁんて最初は無駄口たたいてたトラップが、もうなにも言わない。
ルーミィをおなかに乗っけたままぐったりなってる。
そうとうおなかすいているなって分かる。
「大丈夫、きっと無事帰れるよ。」
「うぅ、ありがとクレイ…。」
こんな時でもみんなの心配するお父さんなクレイは偉い。
「あめぇ…。」
お得意のあまい三連発ができないトラップは無視無視。
「…パステルおねーしゃん、ぼくのおやつ食べるデシ?」
おずおずとシロちゃんがわたしに尋ねる。
うぅ、なんてけなげなんだ。
シロちゃんだけはその辺にいるモンスターでごはん食べれるのに、食べてない。
みんなに遠慮しているんだよね。
「…そうね、本当にピンチになったら、シロちゃんもらうね?」
「はいデシ!」
嬉しそうなシロちゃんを思わずぎゅ〜って抱きしめた。

そのとき、くいくいっと腕をひっぱられた。

「ぱぁ〜るぅ、けーきがいうおぅ。」
「え?」
「ほあ、あしょこ。」
ルーミィのちっちゃな指先をみると…確かにいた。
あった、じゃなくていた、のだ。
動く小さなイチゴショートケーキが。

「…くうぞ。」
トラップが信じられないくらい早く立ち上がりケーキめがけて走った。
ケーキはびっくりして信じられないくらいのスピードで逃げ始めた。
「追うぞ!」
クレイも目の色を変えて走り始めた。
「あれは、珍しい!」
キットンもちょっと皆と違う意味で目の色を変えて走る。
「ルーミィ、おれの背中に。」
ノルは素早くルーミィをおんぶすると走り始める。
「おい、はやくこい!」
もうすでに見え隠れするトラップがどなった。

…この光景がゆっくりに見えたのはわたしだけだろうか?
本当はあっという間の出来事で、わたしもすぐに走り始めたけど。
「待ってよう!」

目の色を変えて走るみんなの後を一生懸命追いかける。
キットンに追いついて、聞かなきゃ。
あの逃げるケーキは何なんだって。
だって、だって、みんな絶対食べる気まんまんだもん!
もしも、モンスターだったりしたら、わたしが止めるしかない!

わたしは今まで最高記録なんじゃないか、ってくらいのスピードでキットンめがけ走った。


「はぁ、はぁ……ねぇ、キットン。」
「はい?」
「あれ、何?」
「ケーキですか?」
「そう、ケーキ。」
「あれはケーキンというモンスターです。」
「食べれるの?」
「さぁ?」

…さぁって。
いや、モンスターだって聞いてなお、「食べれる?」って聞いてるわたしもなんなんだ!?
もしかしてわたし自身期待してた!?
や、やばい。
…ううん、そんなこと考えてる場合じゃない。
みんな止めなくちゃ!

「ちょっと、みんな止まって…」
だめだ、聞こえてない。
それにしてもトラップですら追いつけないケーキンの逃げ足ってそうとう速いんだろうな。
でも、そんなに早いのにどうしてまだ姿が見えるんだろう?
あの小ささだったらとっくにわたしから見えなくなってもおかしくないのに。
現にトラップはもうほとんど見えないのに…
ううん、そんなこと考えてる場合じゃない。
みんな止めなくちゃ。



………ん?
今、どこかおかしかった。
どこが?
ケーキンの逃げ足が速いってこと?
ううん、ここじゃない。
トラップがほとんど見えないってとこ?
ううん、もうちょっとおしいかな。
ケーキンがまだわたしの目に見えるってとこ?
…ここだ!

トラップが小さく見えるのにとても小さいケーキンがまだ普通に見えてる。
ううん、今、また大きく見えてる。
つまりつまり…
「危険が危ないデシ!」 足元でシロちゃんが叫んだ。

『みんなとまってぇぇぇぇぇ!』

森の鳥たちがびっくりしてばたばたっと飛び立った。
みんなびっくりして止まった。
「なんだよぉ!?パステル!?」
「きょ、巨大化してる!」
「なにが!?」
「ケーキが!」
みんな、はぁ?って顔。
でもちょっと冷静になって再びケーキを見たとき、顔色が変わった。
森の木を突き抜けたイチゴ。

そうそう、このケーキイチゴショートだったんだよね。

なんて、のんきに考えてる場合じゃない!
「逃げるぞ!」
クレイの一声でみんなくるっと私の方へ来た。
「ばか、ボーっとしてんじゃねぇ!逃げっぞ!」
ぽかっといらない一撃をしてトラップが先頭にたつ。
ったくぅ、逃げ足だけは速いんだから…
「ケーキンは追っかけると大きくなるんですねぇ〜。」
「図鑑に書いてなかったのぉ?」
「えぇっと思い出しますね。…あぁ、書いてました。」
「早く思い出してよぉ!んで大きくなったらどうなるの?なんか怖いけど。」
「食べようとして追っかけた人間を逆に食べようと追っかけるらしいです。」

へぇ、そうなんだぁ。
食べようとしたら逆に食べられちゃうんだね。
………だからそんなのんきに考えてる場合じゃないんだってば。

「み、みんな、急いで逃げるわよ〜!」
「お!?パステルちゃんどうしたの?」
「いいから、早く、逃げましょ!」
「へぇへぇ、そっちに逃げるのはかまわないけど、余計に森の奥にいくぞ?」
「は?」
「街への道はあっち。」
「…いつ調べたのよぉ?」
「おめぇがキットンと話してる時に。」
「じゃぁ、早く言ってよぉ、ねぇクレイ?」
「…頼んだのはオレなんだ。」
「あ、そうなの?さすがクレイ。」
「なんなんだよ、その差は。」
「もう、そんなのどうでもいいでしょ?はやく逃げよ?」
「ったくよぉ。しっかりついてこいよ!」
「うん!」
「あ、待ってくださいよぉ〜!」
「キットンしゃん、頑張るデシ!」
「のりゅ、がんばうおう!」
「うん、ルーミィもしっかりつかまっててくれ。」
「うん!」

私はちょっと後ろを振り返った。
ちょっと小さくなったケーキンが森を走ってた。

 
そのあと無事に街についたわたしたちが一番に立ち寄ったのは。
もちろん、ケーキ屋さんだった。

MOMOの裏話。
三周年企画の小説です。

みなさん、こんにちは!パステルです。
オーシに頼まれたおつかいの途中でまたまた迷子になった私たち(トホホ…)
食料もそんなに持ってきてなくて、そこをついてしまったの。
おながぺこぺこだおう、な私たちの目の前に歩いてるケーキが!
これは、逃がすわけにはいかないぜ!
って私以外は目の色を変えておっかけてるけど…
それはなんとモンスター!
もしかして…みんな食べる気!?

私たちのおなかはどうなっちゃうのぉ〜!?

↑が予告編です。
結構FQらしく書けたと思いますが…どうでしょう?
 
ファイル作成日:2003年12月22日(ちょい修正2019年10月15日)


(C)深沢美潮/迎夏生/角川書店/メディアワークス


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