〜迷子にするナビ〜


クエストの途中で立ち寄った街。
そこで私たちは店に貼られたポスターを見つけた。



エレキテル・ビーナの体験者募集中!
エレキテル・ビーナの体験者を募集します。
エレキテル・ビーナとは、出発地から目的地まで道を案内する機械です。
エレキテル・ピジョンよりも高度な知能を搭載しています。
体験者には体験した事、感想を聞いて、新製品として販売するか検討します。
報酬もありますので、ぜひお願いします。

問い合わせはお近くの冒険ギルドまで!


注意事項
・体験者は冒険者に限ります。
・出発地から目的地までモンスターがでる場合があります。
・まだ試作段階です。




「こ、これ、やってみませんか!?」
目をキラキラさせてポスターを指したのはキットンだ。
「報酬金額書いてねーけど、いいんじゃねぇの?新製品として欲しくなっても買えねーだろうし。」
「クエストも無事終わったしな。」
「クエスト…というよりおつかいだけどね。」
「おちゅかーい!」
ずんっとちょっと落ち込んだ後、すぐに立ち直るのが私たち。
早速、街にある冒険ギルドに行ってみた。
 
「これが、エレキテル・ビーナです。代表者一人の肩に乗せてください。」
冒険ギルドで渡されたのは鳩型の機械だった。
「代表者の肩の上で方角を認識し、案内ます。」
受付の人がにっこりと笑って、クレイに手渡した。
「代表者っていったら、クレイ…で大丈夫か?」
「な、なんだよ、大丈夫って!?大丈夫に決まってるだろ!?」
クレイはそう言うと、自分の肩に乗せた。
「決して途中で代表者を変えたり、後歩きしないでくださいね。」
「は、はぁ、わかりました。」
ちょっと苦笑いなクレイ。
そりゃそうだ。後歩きなんてすることないもの。
 
「スイッチは尻尾になります。尻尾を下に下げてください。」
「あ、はい。」
クレイが尻尾を下げると、ビーナの目がチカチカっと光だした。
 
『アンナイ、ハジメマス!アンナイハジメマス!』
「おぉぉぉ!!しゃべりましたよ!」
キットンが興奮した声で叫んだ。
「それでは、エレキテル・ビーナの案内にしたがって、街に行ってください。」
「そこの街のギルドでビーナを返却して、感想を書けばいいんですね?」
「はい。一応地図もお渡しします。ではよろしくお願いします。」
私たちは、冒険ギルドを出て、ヒポちゃんに乗り込んだ。
 

しばらくビーナの案内でまっすぐ進んでいく。
『コノママ ミチナリ デス。 コノママ ミチナリ デス。』
まっすぐまっすぐ、普通のモンスターも出ない安全な道。
「こりゃ、けっこういい仕事かもな!」
ぴゅうっと口笛を吹いてトラップは言った。
そうだねー、と笑ってのほほんと笑った私たちなんだけど…
この後とんでもないことになるのであった。
 
「コノサキ  300メートルサキ ヒガシ ホウコウ デス。」
「お、とうとう曲がるらしいぞ!東…おい、マッパー磁石!」
「はいはい…えーっと、私たちが向かってるのが北だよ。」
「ってことは、右だな。」
「ぱぁーるぅ、みぎ、ないふらお!」
「そ、そう、ナイフ!」
「へーへー。」
「でも300メートルってどのくらいだろ?」
普段冒険中に道のキロ数とか気にしないしなぁ。
すごく歩いた、とか、近かったとか。
地図も目的地までの目印を目安に曲がったりするしなぁ。
丸い看板とか、大きなへんてこな木とか。
「んー、そうだなぁ、目標物とかあるんだろうか…?」
くるり、と景色を見渡そうとクレイが振り返った瞬間。
 
『ルートヲ ハズレマシタ! ルートヲ ハズレマシタ!』
「え!?」
ビーナがばさばさっと羽ばたいた。
機械仕掛けなのに何故か羽だけはリアルに作ってあるビーナ。
その羽が、一枚抜けて、ヒポちゃんの鼻に乗っかったではないか!!
「ブ!!ブフォー!」
驚いたヒポちゃんは暴走してしまったのだ!
「「「ぎゃーーーーーー!!!」」」」
そのまま、私たちは森の中へと迷い込むことになってしまうのであった…
 

*****
 

「ギャァギャァ」
「ピョピョピョピョ」
「キーキー」
 
怪しげなモンスターの鳴き声がする森の中。
私たちは途方にくれていた。
『ルートヲ ケンサクシマス。 ルートヲ ケンサクシマス。』
ヒポちゃんが落ち着いたあとも、ずっとこの調子のビーナ。
どうもルート以外の道に入り込んでしまい、混乱しているようだ。
道…といえるかどうかも謎なんだけど…ね。
怪しげな獣が通った道なんだよねぇ。
 
「だ、だいじょうぶかなぁ?」
「方向音痴の知能じゃなけりゃ大丈夫でねーの?」
トラップが大あくびしながら答えた。
こ、こいつ、なんでこんな余裕なんだ。
「ご、ごめん。オレが振り返ったから…」
クレイがずーんと落ち込んで言った。
「そ、そんな!後歩きするなって言われたけど、振り返るな、なんていわれてないもん!」
「うんうん。」
「クレイしゃん、元気だすデシ!」
シロちゃんがぽんと、クレイのひざに手を置くと同時に、
『ナビ サイカイ シマス! ナビ サイカイ シマス!』
とビーナが言い出した。
「おぉ!よし、どっちだ!鳥!」
鳥…ってあーた。
『コノママ ミチナリ マッスグ デス!マッスグ デス!』
「「えぇぇ!?」」」
みんなの声がハモった。
 
だって、まっすぐって、まっすぐって…
獣道すらない、雑草がぼうぼうと茂っているところなんだもの!
みちなりってどこになるのよーーー!?
「ど、どうする?」
私の答えに男共は
「ま、進んでみっか!」
「そうだな!」
「行きましょう!」
こっくりとうなずくノル…
だ、大丈夫なのだろうか…?
 

しばらく道なき道…いや獣道を真っ直ぐに進んでる間黙ってるビーナ。
「ねてうのかぁ?」
ルーミィがビーナをつんつんとつつくと、
『ネテナイ!』
と答える。
寝てないって…機械が答えるとは思わなかった…
『コノサキ  200メートルサキ  ニシ ホウコウ デス。』
「西…ね。えっと、あ、北に向かってるみたい。だから…えっと。」
「左。」
「そうそう。左ね。」
「ふぉーく、だお!」
「左…おぉ、確かになんか獣道っぽい交差点が見えるぜ?」
目がいいトラップがそう言うんだから間違いない。
私には獣道もなにも…ぼうぼうの草しか見えないんだけど…ね。
「左に曲がりまーす。」
トラップがふざけた声で左にハンドルをきる。
「んもー、余裕ねぇ。」
と私が言ったとたん!
 

バサバサバサ!
 
育ちまくった草のつるが身体中に当たってきたではないか!

「いたたた!」
「いちゃい!」
「いてー!」
「ぎゃー!」
「いててて!」
「いたいデシ!」
「うぉー!」
それぞれが叫んでるうちにつるの攻撃はなくなったんだけど…
 

「きゃあああああ!」
私は絶叫した。
 
だってだってだって!
マイタイスライムがいーっぱい乗り込んでたんだもん!
 
「こりゃ、一度カバとめっぞ!また暴走したら困る!」
「きゃーーー!いやーーー!」
「おいしくないのデシ。」
「ぎゃわわわ!こりゃたまりません!」
「叫んでる暇があったら倒せ!」
「いや、車内じゃ危険だ!掴んでなげるんだ!」
「ふひゅーん!」
 
マイタイスライムと格闘してる間、ビーナはというと…
『ルートヲ ハズレマシタ!ルートヲ ハズレマシタ!』
と混乱していた。
クレイもマイタイスライム落とすために、あちこち向くものなぁ…
なぜかクレイの所に一番たくさんマイタイスライムいたし…
 
ようやくマイタイスライムを落としきり、草ぼうぼう地帯を案内無視で進む。
まぁ、無視もなにも、ずーっとビーナは
『ルートヲ ケンサクシマス。ルートヲ ケンサクシマス』
状態だったんだけどね。
進む道は獣道。
「獣道は獣が通る道。もしかしたら人里に食べ物求めて通う道かもしれません。」
というキットンの意見に賛同したからだ。
でも…ね。
 
「怖い獣への住処への道かもしれませんがねー!ぎゃはははは!」
「わ、笑い事じゃなーい!」
「ギャンブルみてーなもんだな、よし賭けてみっか!人里に!」
「や、やめてよ!」
「や、やめろよ!」
私とクレイの声がハモった。
「「トラップが賭けたら負ける!」」
 
だけど、運のいいことに強いモンスターに出会う事はなかった。
うん、あくまで強いモンスターに。
マイタイスライムはやたらに出会いまくったんだよね…
もうマイタイスライムの山と名付けていいくらい…
 
…とふと私は受付の人から渡された地図をみた。
せめて、今現在地がわかれば…
山の名前であるかもしれないじゃない?例えば、
私の目に入ったのは、『マイタイ山』。
そうそう。マイタイ山とか…
 
「あああああああ!」
「なんだよ、うっせーな!」
「分かったのよ!現在地!」
「本当か!?」
「うん!ここマイタイ山っていう山だよ!きっと!」
私は地図のマイタイ山を指してトラップに見せた。
「で?」
「でって…現在地分かったら目的地までの道分かるでしょ?」
そう言うとトラップは、「はぁぁぁ」と大きなため息を着いた。
「ぶぁぁぁか!現在地の地名だけ分かってもしょーがねーの!」
「え?」
「え?…って…山の名前だけ分かってどうするんだって言ってんの。山のどこか分かんねーと…」
「右か左か断定できないよね…」
がくっ…
そうだよね。山の名前分かっても仕方ないんだ。
今、山の中心なのかそれとも右側か左側なのかが重要だよね。
 
「ぱぁーるぅ、ぱぁーるぅ。」
「うぅ、ごめん。ルーミィ。私役立たず…」
「?そえよりね、あれみちぇ。でーかい、まいたいすあいむだお!」
「うぅ、そうでーかいマイタイスライム…って!?」
 
ルーミィが指差す方をみると…
「!!!」
確かにいた。
でかいマイタイスライム…のオブジェ。
 

「すごいですねぇ。もしかしたらこれだけ大きいと地図にも載ってるのでは?」
キットンに言われ慌てて地図をみる。
 
「あ、あったぁぁ!ここよ、ここ!」
私が指差すと皆一斉に地図を覗きこんだ。
そこには「マイタイスライムオブジェ」と書かれ、マイタイスライムのイラストがあった。
「でかした!ルーミィ!これで目的地いけ…」
『ルートヲ ケンサクシマシタ!コノママ ミチナリマッスグ 500メートルサキ ニシホウコウ デス!』
 
「「「うぉーい!」」」
 
みんなでビーナにつっこんだのは言うまでもない。
 

*****
 

それからビーナは迷わず案内…したわけでなく。
地図とにらめっこしながらいくことになった。
私が「東の方角に進んで。」
ビーナが『ニシ ホウコウデス!』
となった時は皆で地図確認。
ビーナの道案内は正しいんだけども、危ない場合もあるからね。
確かに近いけれど、崖を飛び越えるとか、深い川を突き進むとか。
そういう場合は、迂回して安全な道を行くことにしたのだ。
そのたびに、『ルートヲ ハズレマシタ サイケンサク シマス』とビーナは戸惑っていた。
 
もちろん私とビーナが一緒になる時もあって。
その時は迷わずその方向に行く………事はせずやはり皆で地図確認。
なぜなら私が東と思いながら「西!」と間違える事も想定してるからだ!


…ナサケナイ…


そんなこんなでビーナとケンカ(?)しつつ、目的地にへとへとになりながら着いたのだ。
 
アンケートに書いたこと…?

・振り向いても大丈夫なように(振り返るとルート見失う)
・近道ばかり案内しないで安全な広い道を案内できるように(道なき道を案内すること有り)
・不必要な羽飾りはいらない


そして

・たまにおちゃめ!なのは楽しいかもね!
 
 
 
 

「ちょっとー、もう、ビーナ!これどう考えても空飛ばなきゃ進めないよ!」
『ボク  トベル  モーーーン!!』




MOMOの裏話。
私がマジでナビで迷子になったという実話を元に書いた話。
もうね、ナビってたまに、無茶言いませんか?
いや、楽しいからいいですけど(ぇ
 
ファイル作成日:2009年8月13日


(C)深沢美潮/迎夏生/角川書店/メディアワークス


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