〜へんてこ森の財宝〜
「手紙を届けたい?」
「はい。」
げへへと笑ってキットンは事情を説明しはじめた。
今、わたしたちはおつかい帰りに立ち寄った町の宿屋にいる。
キットンは先ほどまで薬草の補充に買出しに行ってたんだ。
キットンが薬草店に入ると、ちょうど薬草を売っている人がいて。
ちらりと覗き込むと見たこともない薬草だったから、ついつい話しかけちゃったんだって。
んもう!ガラの悪い人だったらどうするんだろうね?
自分の好きなことになるとそんな考えも頭から飛んじゃうからなぁ…キットンって。
「それでその薬草見せてもらったのか?」
クレイはロングソードを手入れする作業を止めて尋ねた。
「ええ!もちろんです。本当見たこともない薬草でして…」
キットンがガサガサと自分の鞄からひとつの薬草を取り出した。
「ほら、珍しいでしょ!」
どれどれと見せてもらったけど…
う、うーん………
他の薬草とどう違うのか、全然分かんないよ。
「んで?薬草からどうなって手紙を届けることになるんだよ?」
「あぁ、それで薬草や植物の話が盛り上がってですね。ストローさん…
あ、その人ストロー・ベルタさんって言うんですけどね。
ストローさんの故郷はすっごく珍しい植物が沢山生息しているそうなんですよ。」
わぁ、キットン、すっごく嬉しそうな笑顔。
それにしても、植物の話で盛り上がれるって、ストローさんも植物が好きなんだなぁ。
「で?」
「それでですね、珍しい植物見に行きたいですねーと話したら手紙を頼まれました。
13年ほど前、家出同然で冒険者になったそうです。
近くまで来たものの帰りづらい…けれど、手紙だけでも…ということです。」
そう説明して、キットンは手紙を鞄から出した。
表書きに『とうさんへ』とだけ書かれていた。
「どうして郵便屋にたのまねーんだ?」
「さぁ?」
「さぁ…って…。」
「まぁ、いいじゃないか。ちょっとした冒険だと思って行こうぜ!」
「おれも冒険いいと思う。」
「ぼーけんぼーけん!」
「冒険デシ!」
「冒険じゃねぇよ!おつかいだろ!?それも金にもならねぇ!」
「いいじゃない、トラップ。それよりキットン、その届ける場所ってどこなの?」
「ここから南に真っ直ぐ行った、キシーの森という所です。えーーっと…はい、パステル。」
キットンはまたまた鞄から何かを取り出した。
古ぼけた地図だ。
「これ貰ったの?」
「はい、そうです。ストローさんが子供の頃の物だそうです。」
「ふーん。えっと、今わたしたちがいるのが、この町だよね?」
恐る恐る地図に指を置いて確認すると、みんなもどれどれと覗き込んでくる。
「あんたなぁ、町の名前書いてるのに間違えたら笑えねーぞ?」
「だ、だってさぁ…この地図とっても古いし…町の名前変わってるかもしれないじゃない。」
わたしの反論をトラップは無視して地図の上に置いたわたしの手を取ってそのまま南に走らした。
「なるへそ、本当に真南だな。」
「あら?なんで急にやる気になってるの?」
トラップを見るとニマニマしてわたしの手をちょっとだけ右に動かした。
指先に書かれた文字はにじんでいるが、よくよく見ると『ザイ ホウ』と小さく書かれていた。
「ザイホウ…って財宝!?」
「じゃいほーじゃいほー!」
「お宝デシか!?トラップあんちゃん?」
「そうだ、シロ!財宝と聞いちゃ、行かねーとな?」
「行かねーとデシ!!」
いや、聞いたというより、見ただろうに。
いやいや、そんな事よりそんなうまい話があるのかなぁ…?
いつもならトラップが疑う側なんだけど、財宝に目が眩んじゃってるよ…
どうする?とクレイの方を見ると、彼もやる気のようだ。
ま、クレイの場合財宝じゃなくて人助けってことでやる気なんだろうけど。
「じゃあ、明日出発するか!」
そう言ってクレイはえいっとこぶしをあげた。
*****
次の早朝、珍しく早起きしたトラップ。
「よし、カバ!頼むぜ!」
「ぶふぉー!」
キーを差し込みエンジンをかけるとヒポちゃんは元気よく鳴いて走りだした。
トラップの意気込みが伝わったのかな?
ヒポちゃんすごくご機嫌。
これなら、早く目的地に着けそうだ。
後ろをみるとふぁぁぁと大きなあくびをしているクレイと目が合った。
「眠そうね。」
「うん、久々に冒険らしい冒険だからさ。ワクワクして寝れなかったんだ。」
うふふ、まるで子供じゃない。
手紙を届けることが、冒険らしいかどうかは気にしないであげとこう、うん。
キシーの森までの道のりは本当に簡単で迷いようがなかった。
そりゃそうだ、真っ直ぐだもん!
たどり着いたキシーの森は、なんていうか「変!」の塊の森だったの!
だってだって、まず『入口』があるんだよ!?
わたしたちが立ってる目の前にはアーチの形をしている木があって。
アーチのてっぺんの枝が偶然にも『入口』と見えるような形で生えているんだ。
まるで森がここから入って下さいって言ってるよう。
そこから獣道とは違う整備された森の道が続いていた。
「道は森の中で暮らす人々が作ったのでしょう!」
キラキラとした目で『入口』木をスケッチしているキットン。
「ねぇ、キットン。この森の中に家があるの?」
「ええ、そうです。もう一枚森の中の地図がなかったですか?」
「えっ、嘘!?」
わたしは慌てて地図を見たけど……どう見ても、一枚なんだけどなぁ?
「ねぇ、出し忘れてない?」
「おかしいですねぇ…」
キットンはガサガサと鞄を探す。
「ルーミィ、もってうお!」
ルーミィもなぜか自分のリュックをガサガサ探す。
うんうん、君は探さなくていいから。
「あったおー。」
「えぇ!?」
「はい、ぱぁーる、おたかあのちずらおう!」
「あ、ありがとう。」
受け取った紙にはふにゃふにゃの線が地図のような形をしている。
そして一箇所、黄色や青色や橙色などでカラフルに彩られている。
「あぁ、この間作ってた地図ね?」
「そうらおぅ!」
トラップも隣から覗きこんできた。
「そういえば、このお宝ってなんなんだ?」
「あ、あんたまさか、ルーミィのお宝も奪うつもりじゃないでしょうね?」
「ふっ!お宝盗むのが仕事だぜぇ?」
「あ、あのねぇ…。」
「おいおいトラップ!」
「ぱぁーる、くりえー、らいじょーぶらお!こえ、ぬしゅめないもん!ねー、シロちゃん?」
「はいデシ。盗めないデシ!」
にへらーとシロちゃんと一緒に笑ってルーミィはその盗めないお宝の地図をリュックにしまった。
うーん、なんなんだろう?ルーミィのお宝って…。
わたしたちが首をかしげて顔を見合わせていると、
「あぁ、パステル、すみません。鞄の奥底にありました。」
と、キットンが鞄からキシーの森の地図を取り出した。
渡された地図を広げて、うっと息を呑んでしまった。
地図に書かれていたのは、森の中にあみだくじのように広がる道、道、道。
ストローさんの家は一番奥のほうにぽつんとあるようだ。
そこまで行くのに、えーっと、えーっと…
うん。
とりあえず、間違えたら全然違う方向に行くことだけは分かる。
「財宝の在り処、でっかく書かれてねーか?」
「えぇー…?これかなぁ?」
わたしは、大きく赤い丸をしている家を指した。
「あ、それはストローさんの家です。」
「あ、そう。」
「ふふん、なるほど?さすが隠し財宝だぜ。」
トラップがニヤリと笑うけど。
わたしには、なにがなるほど、なんだかさっぱり分からないんだけど…
大体、いつ隠し財宝ってなったのよ…
「とにかく、迷わないよう慎重に行こうね!」
「しんちょーらお!」
ルーミィもわたしに合わせて困った顔をしながらぐっと両こぶしをにぎってくれた。
*****
ヒポちゃんのスピードを落としてゆっくりと森を進んでいく。
右を見ても変な木々、左を見ても変な木々。
「うっわ、なんだあの木?」
トラップが指した先には葉っぱが下に生えていて、上が根っこの木だった。
うーん、どうやってバランスとって立ってるんだ?
「へんてこだなぁ。」
クレイが面白そうに手を伸ばしたのはカラフルなツタ。
青と赤と白のしましまで本当に植物なのかもわかんない。
「この森の人達は特有の土地を利用して生計を立ててるんでしょうね。」
キットンの言葉にうんうんとノルが同意する。
確かに、この森の人達はたくさんの植物を育ててるみてたいで。
家が近くなると、木々の周りに柵が作ってあったり、畑が見える。
畑に生えている木の果物や野菜もも変で、見ているだけで面白い。
ハート型や星型のポップな形をしている。
果物が植えている辺りにくるとあまーい香りがしてくる。
「ぱぁーるぅ、あえ、たべたい!」
「だーめ、人のものだから勝手に取ったら泥棒になるでしょ?」
「ぶぅぅぅぅ!」
ルーミィがほっぺをぱんぱんにして怒ったけど、こればかりは仕方ない。
甘い香りに惹かれるのはルーミィだけじゃなかった。
「ビビャーン!!」
変な鳴き声とともに私たちの前に何かが飛び出てきたのだ!
「モンスターか!?」
ノルが緊張した声で尋ねる。
「た、たぶん、モンスターだと思う。」
飛び出してきたのは、猪とトカゲを混ぜ合わせたような見たこともないモンスター。
キットンが「図鑑にも載ってません!」と喜んで報告する。
喜ぶとこじゃないぞぉぉ!
「どうする?」
わたしの言葉と同時か早いか。
クレイはヒポちゃんから飛び降りて刀を構えた。
「どうするって…倒すしかないだろ。トラップ、後から援護を頼む。」
「らじゃ!」
トラップはパチンコを構えてモンスターに狙いを定め、玉をはじいた。
バチィーンという音とともに「ビャーン!」とモンスターの鳴き声!
目からダラダラと血を流している。
玉が当たったんだ!
その隙を逃さずクレイが「だぁぁー!」とロングソードを振り下ろす。
あぁ、でもモンスターはまだギッとクレイを睨みつけてる…!!
「び、ビビビ、ビャビャーン……」
しかし、攻撃をしようとしたモンスターは断末魔(?)をあげ、どさり、と倒れた。
「おっしゃぁ!」
「うっしゃぁ!」
クレイはヒポちゃんに戻ってトラップとハイタッチした。
うーん、かっこいいじゃないか!!
「ぱぁーるぅ、ぱぁーるぅ。」
「どうしたの、ルーミィ?もしかして、怖かった?」
ふるふるとルーミィは首を振って倒れたモンスターを指して言った。
「ルーミィ、おなかぺこぺこらおう!あえ、たべえうかぁ?」
……倒されたモンスターを見てぐぅっとわたしのおなかもなった。
「………どうかなぁ?」
「げ!マジかよ!?」
ぐぅっとトラップのおなかもなった。
「……そりゃイノシシっぽいから食えるかもしんねーけどさ。」
「ただ、毒持ってたら危ないよなぁ…。」
ぐぅっとクレイのおなかと一緒にキットンとノルのおなかもぐぅっとなった。
「うーん。そうだ!あそこに見える民家の人に聞いてみよう!」
「そうね、そうしましょ!わたしも行くわ!」
「ルーミィもいくー!」
「ぼくも行くデシ!」
わたしとルーミィとクレイとシロちゃんでモンスターを倒した所から見えた家に行く。
そこではこの家の住人だろうご夫婦が果物の選別をしていた。
「こんにちはー。」
「こんにちは。君たち冒険者かい?」
「はい。」
「もしかして迷い込んだのかい?」
「いえ、ちょっと伺いたいことがありまして…」
クレイがかいつまんで説明すると、ご夫婦はちょっと顔を見合わせて笑った。
「はっはっは!トカゲシシを食べるなんて通だねぇ!」
「トカゲシシって言うんですか?」
「あぁ、この辺じゃそう呼んでいるよ。…うん、そうだ、ここまで運んでおいで。
料理してご馳走してあげるよ。もちろん、果物もね?」
奥さんの方がルーミィをみてにっこり笑ったから、ルーミィの方を見たら…
げげ!
ご夫婦が選別してる果物をじーーーっと見てよだれをたらしてるではないか!!
「そ、そんな、悪いですよ…!!」
クレイが慌てて手をぶんぶんと振ると奥さんが笑顔のまま、
「いやいや、わたしたちも久しぶりにトカゲシシを食べたいから、ね?」
と言ってくださった。
「…じゃあ、お言葉に甘える?」
クレイを見上げて尋ねると、ちょっと迷った顔をしたけど、うなずいた。
「わーい!ごっちしょー!」
*****
テーブルの上に並んだネルさんの料理はとっても美味しそう!
あ、ご夫婦のお名前は旦那さんがヒチミさんで、奥さんがネルさん。
んでんで、ネルさん特製の料理を紹介するね!
まぁるいお皿に置かれたこれまたまぁるいこっぺぱん。
いつも見ているこっぺぱんより、なんだかふんわりしている。
隣に置かれているのは、ほかほかのホワイトシチュー。
その中にごろごろと四角い肉が入っている。
これが、さっき倒したトカゲシシなんだろうな。
「さぁ、おあがり!」
「いっただっきまーす!」
ネルさんの言葉を待ってました!と言わんばかりにパクパクと口にほおりこむ。
んんんーー!?なにこれ!?
パンもお肉も今まで食べたことない味なんだけど、すっごく美味しい!
「ほほう、このパン、変わった小麦を使ってるんですか?」
キットンがこっぺぱんをじっくり見てご夫婦に尋ねる。
「あぁ、そうだよ。この森の土だけで育つ小麦だ。」
「ほほう。やはりこの森の土の成分で変わった植物が育つんですねぇ。」
キットンはふむふむと言いながらメモを取ってる。
「おばちゃん、おかあいー!」
「はいはい、ルーミィちゃん。」
ルーミィったらシチューをあっという間に飲んじゃった。
…なんて言ってるわたしもあっという間に飲んじゃったんだんだけどね。
デザートは、変わった果物。
蜜のようなものが入っていて、すっごーく甘くて美味しくて…!
ほっぺたが落ちそうになっちゃったんだ!
「すみません、本当お言葉に甘えまくっちゃって…」
「いいんだよ。ところでパステルさんたちはどこへ向かってるんだい?」
「えっと…」
わたしは地図を取り出して、ストローさんの家を指した。
「ここです。」
「えっ?!今いるのここだけど…どこからこの森に入ったんだい?」
「えぇぇ?!」
なんとなんと!
ヒチミさんが指したのは、ストローさんの家とは真逆の方だったの!
「えっと、わたしたち、『入口』って変なアーチ型の木から入って来たんですけど…。」
わたしが『入口』と書いてある所を指す。
「それで、ここを右、ここを左、ここを右、ここを…」
順に指でなぞりながら説明していると、
「げ!パステル、おめー、そこ右じゃなくて左に曲がったじゃねーか!」
トラップがわたしの隣に指を置いて左に動かした。
「ここ、左に曲がったぞ?」
「えぇ!?うそっ!?」
がぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!
「あぁ、もしかして、『左右の木』に騙されたね?」
ヒチミさんが苦笑いでわたしたちの置いてある指のところに指を置いた。
そこには確かに『左右の木』と書いてあり、『注意すること』と小さく書き添えられていた。
「ここね、左に『右』って形の木があって、右に『左』って形の木があるんだよ。」
うげげ!なんだそれ!?
「入る時に『入口』の形から入ったから惑わたんだね。」
ヒチミさんはそうフォローしてくださったけど…
わたし、そんなの関係なしに迷ってしまったかもしれないぞ…!!
ううう、なさけなーーい!!
*****
わたしたちはヒチミさんたちに沢山のお礼とお別れをつげ、来た道を戻る。
「でもよかったな!あそこでモンスターが出て!」
クレイがにこにこと、笑ってくれたのがなによりの救いだ。
「来た道を戻るんだから、左右逆に戻るだけだからな!間違えんなよ!」
はっ!そうだそうだ。
「えぇーっと、さっきのお宅がここだから、今ここだよね?」
「お、おいおい!!なんで地図が回ってるんだよ!?」
「あれ?さっき曲がらなかった?」
「曲がってねーよ!」
「う、うそーーー!?だってさっきの分岐点、右に曲がったじゃない!」
「分岐点…っておめー、まさか脇道を本道と間違えてねーか?」
え?え?どういうこと???
クエッションマークを顔いっぱいに出してたらトラップがため息ついた。
「確かに分岐点のような道はあった。だが、あんたが言ってる真っ直ぐの道は畑への脇道。細かっただろ?」
「う、うん。」
「だあら、右に曲がったって思ったのが本道になるから真っ直ぐな道になんだよ。」
「えぇぇっぇぇぇ?どういうことぉぉぉ??でも曲がったじゃない。」
「あぁ、そういえばあのカーブ、曲がるような感じだったよな。」
クレイがのほほんと笑った。
はい?カーブ…???
さっぱり、訳わかんなくなってきた。
えっと……本道と脇道?細い道は畑への脇道で、右じゃなくてカーブで真っ直ぐ?
「…えーっと。この地図には畑への道は書かれてないんだね。」
「そゆこと!だぁら畑があるところ…家の近くは要注意だな。」
「わかった。気を取り直してさらに気をつける!」
そう言うと、トラップは意地悪そうに笑ってヒポちゃんのハンドルをキュッと回した。
「んじゃ、今曲がったのは?」
「えぇぇっと、ひだ…じゃなくて右!」
「正解!じゃ、目の前に見える道は?」
「へっ・・・・!?えっと細道だから…脇道?」
「ぶーっ!この場合、道が一本しかねーから、細くても脇道にならねーんだよ。」
ひ、ひっかけられたぁぁぁぁぁ……!!!
*****
迷子になりそうになりながら、奥へ奥へと進むとようやく道1本になった。
きっとストローさんの家は離れた所にあったから、そこへと続く道だけになったんだ!
「ぱぁーるぅ、へんな、たけがいっぱいらおー!」
ルーミィが指したのは、変な竹が生えている竹林だ。
なにが変って、葉っぱだ。
すっごーーーーく大きいのだ。
そうねぇ…
わたしたち全員が一枚の葉っぱで十分雨宿りできるほど大きいかもしれない。
でも幹は竹のように細いから葉っぱの重さでだらんと頭をさげている。
まるで、ごめんなさーいって謝っているようだ。
その竹林を横目に進んでいくと、大きな一軒家が見えた。
「お、あれがストローさんの家かな。」
「そうだと願いたい!」
「願いたいって……あんたなぁ…。」
「ぱぁーるぅ、おっきなわらー。」
ルーミィが指したところにはワラでできた大きな大きな人形みたいなのが2つあった。
その大きさはシロちゃんの大きくなった大きさの半分くらいかな。
「なんだろう、あれ?案山子?」
「さぁ?」
「わら、うごいてうー!」
「あぁ、それは風で動いてるように見えるのよ、ルーミィ。」
「ちゃーうもん!歩いてうもん!」
ルーミィがぶぅっとほっぺを膨らませて講義した。
そんな、まさかね?
わたしはどうせ風で動いているように見えるんだってワラの案山子?をよく見た。
「………う、う、う…!!!???」
わたしは口をパクパクして隣にいたトラップの服を引っ張る。
トラップも口をあんぐりあけて目を見開いてびっくりしてる。
そりゃそうだ!
大きいワラの案山子?が2体もうろうろと家の周りを動いてるんだよ!?
もしかして、あれモンスターなのかも!!
ワラのモンスターはワサワサと足音をならしている。
巨体だけど、ずしんずしんっていう足音では無いところはワラらしいな……
って感心している場合じゃない!!
「どうする…?」
「どうするって倒さなきゃだろ……」
「そうだけど…あ、キットン。あのモンスター図鑑に載ってないの?」
「調べてみたのですが、載ってなかったです。これも新発見ですね!」
だ、だから喜ぶところじゃないんだってばぁぁーー…
「ワラで出来てるんだろ?じゃ燃やせばいいんでね?」
「いや、あれだけ大きいのが燃えてみろ。家にも森にも飛び火してしまう。」
「そうですよ!こんな貴重な植物が燃えては大変です!」
「じゃ、どーすんべ?」
「う、うーん。」
クレイが首をひねり、悩みはじめた。
確かに火が弱点だろうなってのは分かるけど、燃やすのは危ない。
だからって力まかせに突っ込んでいくのも危ない。
ワラのモンスターがどれだけの破壊力を持ってるか分からないもんね。
「ぼく、まぶしいのデシするデシ?」
シロちゃんが黒い瞳をキラキラしながら聞いてきた。
……あれ?
「ねぇ、シロちゃん。あれ危ない匂いしないの?」
「はいデシ。ワラの匂いデシ。」
「えぇぇ?どういうことだろクレイ?」
「う、うぅーーーん?」
クレイは頭をかかえた。
「あ、ぱぁーるぅ。わら、ゆらゆらしたお!」
「え?」
見るとルーミィが言ったようにワラのモンスターがゆらゆらしてる。
なんだか、足元がおぼつかない酔っ払いのようだ。
「……風。」
ぽつりとノルがつぶやいた。
確かに今、ちょっとだけ強い風が吹いている。
「なるほど。風も弱点なのかもしれません。ほら有名な絵本にもあったでしょ?」
「あぁ!ワラの家はピュウと吹き飛ばしになりましたってあれね!」
「しかしよー、風なんてどうするんだよ?んな魔法使える奴いねーぜ?」
「ルーミィ、まほー、つかえうお!ヨメダヤチイ…」
「あぁぁ、ルーミィいいのよ。ありがとう。」
わたしはルーミィの魔法を制止させる。
「あーあ、私たちもふぅーって息でワラを飛ばせれたらいいのにね。」
「ふぅふぅすうのかあ!ルーミィすうお!ふぅー!ふぅー!」
「ふぅーふぅーデシ。」
ルーミィとシロちゃんが一生懸命ふぅふぅしたら偶然風も吹いてモンスターがゆらゆらした。
その様子を見ていたクレイ。
「そ、そうだ!うちわだ!」
ポンと手を叩いた。
「う、うちわ?」
「そうだ、うちわだ!」
「……クレイ正気か?」
トラップが怪訝な顔をして尋ねるとクレイは大きくうなずいた。
「あぁ、ちょっと俺さっきの竹林に戻ってくる。」
そう言ってクレイはヒポちゃんから降り、てててーっとかけってもと来た道を戻っていった。
「あ、あいつ、うちわとかって…まさか作る気か!?」
「えぇぇ!?クレイってうちわの作り方知ってるの?」
「さぁ…でも、竹でアーマー作ったくれーだし。」
「そりゃそうだけど…」
うーむ………うちわを作るファイター?そんなの聞いたことも見たこともないよ。
そうこう考えていると、クレイがえっちらおっちらと、なにかを引きずりながら帰ってきた。
「おれ、てつだってくる。」
ノルはそう言ってヒポちゃんから降りてクレイのほうへ駆け寄っていく。
「くりぇー、なにもってんら?」
「葉っぱデシね。」
うん、シロちゃんの言うとおり、葉っぱだ。
さっき竹林で見た大きな大きな葉っぱ。
それを持って帰ってきたのだ。
「これ、結構厚みがあって固いんだ。これをうちわのようにみんなで扇げば結構な風になるぜ?」
にかっとクレイが笑った。
……ま、まじですかーーーー!?
*****
わたしたちは家の裏にモンスターに気づかれないように回る。
家の方に向かって風を起こしてモンスターが家の方に倒れたら危ないでしょ?
だから家の裏から風で扇いで倒すことにしたんだ。
クレイが持って帰った大きな葉っぱを5人でえいさっと持つ。
そうそう。ルーミィとシロちゃんには小さな葉っぱをクレイが渡しているんだ。
きっと駄々をこねるのを見越していたんだろう。
ポケットから2枚ルーミィたちがもてる大きさの葉っぱを出した。
「ルーミィとシロはこれだ。いいかい、これがないとダメなんだ。」
「らめなんか?」
「ダメなんデシか。」
「そう。だから、一生懸命扇いでくれよ?」
「あおぐー!ルーミィあおぐー!」
「ぼくも頑張るデシ!」
う、うーん。本当クレイっていいお母さんになれるよ。
言ったら怒るから、言わないけど。
「よーし、扇ぐぞー!みんな、力を1つに!そぉーれぃー!」
「しょーれい!」
「そーれデシ!」
大きな葉っぱと、小さな葉っぱ2枚を下から上にブンと持ち上げた。
うぅ、結構重いぞ……!腕がプルプルしてるもん。
「お!ゆらいだ!」
「え?うそ!?……!!本当だ!」
なんとなんと!
力いっぱい持ち上げた結果がでたのだ!
ゆらゆらと、ワラのモンスターがゆらゆらっとゆらいでるではないか!
「おっし、この調子だ!今度は降ろすぞ!危ないから慎重にな!そぉーれぃっ!」
「そーれぃっ!」
「そーれっ!」
「そーれっ!」
「そーれー」
「しょうっれいー!」
「そーれいデシ!」
今度はみんな声が出た。
するとどうだろう!!
ワラのモンスターはさっきよりおぼつかない足取りになったのだ!
「行けるぞ!この調子!そーーーれぃぃ!」
もう一度ブンっと葉っぱを往復させようとした時!
「そこまでええええぇぇぇぇぇぇぇ!」
キーーーーンと耳鳴りがするほど大きな声が家の二階から聞こえてきたのである。
*****
「ぶぁぁぁはっはっは!」
目の前にいる強面のおじさんが目に涙をためて大笑いしている。
あの素晴らしい大声の主で今、目の前で大笑いしているのおじさん。この家のご主人だ。
名前はロイヤル・ベルタさん。
ロイヤルさんはわたしたちが案山子を倒そうとしている一部始終を家の二階から見ていたみたい。
そうそう。あのワラのモンスター、やっぱり案山子だったんだ!
なんでも、ロイヤルさんは魔法使いで、魔法で案山子を動かしてるそうだ。
モンスターはもちろん、作物を狙ってやって来る山賊を追い払う役目を担ってるらしい。
「いや、だって、燃やすと危ないじゃないですか…山火事にもなるし…」
しどろもどろでクレイが答えると、ロイヤルさんさんはうんうんと頷いた。
「本当は倒そうとしてる時点で遠くの地に飛ばそうとしたんだが…あまりに君たちが…面白くて!」
げげ!遠くの地に飛ばすって、なにそれ!?
そんな魔法も使えるのーーー!?
ひとしきり笑ってようやく落ち着いたのだろう。
ロイヤルさんはふぅーっと一息ついた。
「それで、君たちはなにをしにここへ?」
「え…あ、はい。実はストローさんから手紙を預かりまして…」
キットンはあわあわと鞄から手紙をおじさんに差し出した。
ロイヤルさんはしばらくその手紙を開けずに複雑な表情で見つめ、そのまま机の上に投げた。
「えぇ!?よ、読まないんですか?」
「ああ。」
「そんなぁ!読んであげてくださいよ。」
わたしがそう言うと、ロイヤルさんは横にふるふると首を振った。
うーん、どうしてだろう?
……もしかして、読むのが…嫌なのかな…?
だって、だって。確かストローさんって家出同然で冒険者になったんだよね?
「ま、どっちでもいいじゃねぇか。届けたのは届けたんだしさ!」
「トラップ、おまえなぁ…。」
「それより、おっさんよぉ、この森にお宝があるんだろ?」
「お宝…?知らないよ。」
「んなわけねーぜ!この地図では位置的におっさんの家の近くに、『ザイホウ』って書いてんだよ!」
トラップはいつの間にかわたしからくすねた地図をロイヤルさんに見せた。
………本当、いつの間に盗ったんだ?こいつ…
「この字…ストローの文字…だな。」
「ふーん、つまり、こいつがこの辺に宝を埋めたのか!」
「いや、これは案山子の名前だ。」
「はぁ?なまえぇーーー?」
トラップが怪訝そうにロイヤルさんを見るとロイヤルさんは窓の外に見える案山子を指差した。
「案山子のあっちが『ザイ』であっちが『ホウ』。子供の頃ストローが名前をつけたんだ。」
「へぇ、案山子に名前つけるなんて、かわいいですね。」
わたしがそう言うと、ロイヤルさんはまた複雑な表情になった。
う、うーむ、この親子に何があったんだろう?
複雑な心境になって、重たい空気が流れたのに。
「あんだよ。宝じゃねーのか。つまんね!」
トラップったら、空気読まないんだから!
わたしがトラップをにらみつけると、呆れ顔でため息をつき、
「おっさんこの手紙いらねぇんだろ?じゃ、オレが見てやるよ!」
とキットンから手紙を奪い取って手紙を開けてしまったではないか!
「ちょ、ちょっと!トラップ!」
「えぇーっとなになに…?」
そして遠慮もなしに彼はそのまま手紙を朗読しはじめたのだ!
*****
親愛なる とうさんへ。
とうさん、元気ですか?
俺はとうさんと冒険者になることに断固と反対し、ケンカになったことを今でも残念に思ってます。
とうさんは俺の話を聞こうともしませんでしたが…俺は、家がとてもとても大事で大好きです。
しかし、それでも俺は冒険者になりたかったのです。
大好きな家で作った植物を色んな世界に売りたかったから。
色んな世界の人々に俺の家で作った物を自慢したかったんだ。
そして、色んな世界の植物を見て回って勉強をしたかったから。
そうして成長して、家を継ぎたかったんだ。
俺は、郵便屋でなく、冒険者に託します。
とうさんは頑固だからきっと郵便屋から届いた時点で捨ててしまうでしょう。
それに郵便屋ではザイとホウを怖がって逃げてしまうでしょう。
だから、俺の大事なものを大好きだと言ってくれる冒険者に託します。
この手紙を読んでるということは、少しは俺のことを許してくれたのでしょうか?
どうかどうか、俺が成長して戻ってくるのをもう少しだけザイとホウと一緒に待っていてください。
立派になって必ず戻ってきます。
その時には笑顔で迎えてくれるよう、元気でいてください。
それでは。 ストロー 』
*****
「けっ、あんだよ。自分勝手な奴だな!ばっからしー!親の顔が見てみたいぜ!」
トラップが呆れ顔をして手紙をロイヤルさんのほうへ投げた。
「あぁ、本当、馬鹿だ……。」
ロイヤルさんは投げられた手紙を見てため息をつき、わたしたちに背を向け立ち上がり、窓の外を見た。
窓の外からザイとホウがロイヤルさんを覗き込んでいる。
ねぇ、ザイ、ホウ。
ロイヤルさん、今、どんな顔してる?
呆れた顔?怒った顔?
願うならば、いつか未来であなた達と親子一緒に笑っている笑顔でありますように。
MOMOの裏話。
ある日のこと。助手席でごろんとなってぼーっと外を見ていたら。
ワラで出来たよく分からない大きななにかを見た。
(え、あれなに?藁ゴーレム?って藁ゴーレムってなんやねん!)
という妄想から出来たお話です。
携帯からブログ投稿したものを大幅改変したものです。
ファイル作成日:2010年2月12日
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