〜ケイトーンと切れない毛糸〜


「牧場で毛刈りの手伝い〜〜!?それのどこがクエスト!?バイトじゃない!!」
わたしたちが文句を言うと、
「クエスト?ふーん。これなんてどうだ?この店の一番安値のクエストだ。買えるのか?」
オーシが出してくれたクエストに超特価!と赤字で書かれた文字の後に数字が並んでいる。
げげ…!!1000Gだとぉぉぉぉ!?
それが一番安いって……

「そんな高いの、かえないお。ぴーぴーなんらお。」
「ピーピーなんデシ。買えないデシ。」
ルーミィ…シロちゃんまでもわたしたちパーティの財政をよく分かってる。
そう、いつものごとくピーピーなんです、はい。

肩を落としたわたしたちを見てオーシは大きくはぁぁぁぁぁぁ、とため息をついた。
「あのなぁ、おめぇら。クエスト買う金を稼ぐのが先だろ!?バイトを紹介してやるだけでもありがたいと思え!」
うぐぐぐぐ。
確かに、ね。オーシの言うことは最もだ。
がっくりと肩を落としたまま、みんなで「バイト紹介してください…」と情けなくお願いする。
オーシはにやりと笑って、ポケットからヒラヒラとと一枚の紙を出した。
「そこの牧場のオーナーとはちょっとした知り合いでね。これが紹介状だ!」
「そうですか、ありがとうございます!」
クレイが紹介状を受け取ろうとすると、オーシはヒョイッと紹介状を隠しちっちっちっと指を振った。
「まさかタダでバイト紹介すると思ってるのかぁ?」
「えぇ!?お金いるんですかぁ?」
「いんや、長い付き合いだし、金はいい。そのかわり、毛糸を10ダース貰ってくること、それが条件だ!」
「毛糸!?10ダースも!?なんで!?」
「そこの牧場では毛糸も作っているんだがな。その毛糸で出来た製品は貴族も愛用するほど最高級なんだよ。」
「なるへそ。オレたちが貰ってきた毛糸を売って利益にしようってか?」
「ま、そういうことだ。」
うーむ、さすがオーシ。抜け目ない。
しかし、最高級ねぇ…
そんな毛糸で作られた毛糸のパンツの履き心地って最高だろうなぁ…
……なんて考えてたら。
「おい、パステル、聞いたか?最高級だってよ、おめーの毛糸…っていてぇぇ!あにすんだよ!」
トラップの足を思いっきり踏んで睨みつけてやった。
ったくぅ!!!



  *****


「あ、見えてきた!あれよね!!」
シルバーリーブから歩いて一週間。
オーシが教えてくれた目印の大きな大きな赤い屋根の家が見えてきた。
家の周りには広い広い牧場が広がっている。
どこまで続いてるんだろう?

「ぱぁーるぅ、毛玉がコロコロしてうーー!」
ノルが牽く大八車に乗ったルーミィが指したほうを見ると、うん。確かに!
牧場でコロコロしている白い毛玉がいた。

「あれ、なんデシか?」
「毛刈りって言ってたし、羊……じゃないよな。あれ。」
「ちがう、絶対違う。」
「おれも、違うと思う。」
「あーーー!!」
キットンが馬鹿でかい声で叫ぶもんだから、耳がキーーンとした。
「あんだよ!!うっせぇな!」
ごちんとトラップがキットンの頭を叩く。
キットンはげへへへ、すみませんと、笑うと、モンスターポケットミニ図鑑を取り出した。
「あぁ、やっぱり。あれは羊ではないです。ケイトーンと言うモンスターです。」
「ケイトーン??」
わたしたちはキットンが開いたページを皆でどれどれと覗き込んだ。


−−−−−−
『ケイトーン』
羊のようなモンスターでミケドリアと同じくモンスターより家畜として見るほうが多いだろう。
ケイトーンの毛は上質で、さわり心地の良い毛糸製品が作られている。
姿はもこもこした毛に覆われていて、足は短く、移動手段は歩くというより転がると言ったほうが的確だろう。
−−−−−−


「へぇー。ミケドリア以外にも家畜として飼われているモンスターっていたのね。」
「そうですよ。ケイトーンはミケドリアほど有名ではないですけどね。」

牧場を眺めながら、しばらく歩き大きな大きな赤い屋根の家に着くと、一人の女性が出迎えてくれた。
クレイがオーシから貰った紹介状を渡すと、
「そうかい、ローレンスの紹介で来てくれたんだね!私はこの牧場のオーナーのアミールだ。」
アミールさんはにっこりと笑い、クレイに握手を求めた。
「あ、俺はクレイと言います。」
クレイは自己紹介した後、順にわたしたちの紹介をする。
アミールさんはうんうんと頷いて、わたしたちを一人一人見て、にっこりと笑った。
「大勢で助かるよ!私の牧場は数百頭のケイトーンがいるんだ。今毛刈りシーズンで猫の手も借りたいくらい大忙しだからね!」
うへぇ!数百頭!?そりゃ、とても大変そう!
「これから、君たちに担当してもらう牧場のエリアに案内するからね。しばらく歩くよ。」

わたしたちが案内された牧場は、森を抜け30分くらい歩いた場所だった。
牧場の隅には厩舎とそこから少し離れた場所に倉庫が建っている。
「へぇー、ここはさっきの牧場と離してあるんですね。」
「あぁ、ここは子供のケイトーンがいるんだ。ケイトーンの大人と一緒にいると危ないからね。」
「危ない?」
「ケイトーンは毛刈りが嫌いで暴れるんだ。ケイトーンは大きくて力があるから子供が巻き込まれないようにしてるんだ。」
げげげ、なにそれ!?
そんなこと図鑑に書いてなかったぞぉぉぉ!?

「この厩舎のケイトーンの毛刈りが全て終わったらバイト終了だよ。」
そう言ってアミールさんは厩舎の中へ案内してれた。
厩舎の中には毛玉がたくさん居た。
すぐ近くで見てもただの毛玉にしか見えないほど毛がもっこもっこ生えている。
刈るの大変そうだぞ、これ。
体も大きくて、キットンの身長よりちょっと大きいくらい。
これで子供と言うのだから、大人のケイトーンはどのくらいの大きさなのだろうか。

わたしたちが目を丸くしてケイトーンを見ていると、後ろから声がした。
「こんにちは。……かあさん、お客さん?」
声の主のほうへ振り向くと、10歳くらいの少年が藁を両手いっぱいに抱えて立っていた。

「カガリ!ちょうどよかった。バイトをしてくれる子達だ。この子達は冒険者だから頼りになるよ。」
「えぇぇぇ!?ぼ、ぼうけんしゃぁぁぁ??」
カガリと呼ばれた少年は信じられないという顔でわたしたちを見渡した。
アミールさんはそんな様子を気にもとめないで続ける。
「今とっても忙しいからね。この厩舎の毛刈り担当はカガリと君たちだけに任せるからね!」
「えぇぇっ!!!」
今度はわたしたちが信じられない!という顔。
それでもやっぱりアミールさんは気にもとめないでにこにこ笑っている。
「大丈夫!冒険者だから力はあるだろ?それにカガリは小さい頃から私の牧場の手伝いをしてくれてるからね!」
「は、はぁ。」

こんな小さい子とわたしたちだけで本当に大丈夫だろうか?
カガリもなんだか不安そうにこちらを見ている。
うーむ、うーむ。
なんだか、とても不安だぞ。



*****


次の日から、毛刈りの手伝いがはじまったんだけど……
これが、もう、本当大変大変!!

わたしたちに与えられた仕事内容はこうだ。
ケイトーンの毛を刈り、刈った毛を集めて荷車に乗せ、荷車が一杯になったら倉庫へ運ぶ。

わたしとルーミィとキットンは倉庫へ毛を運ぶ担当している。
え?運ぶだけなんて簡単じゃないかって?大変だなんて大げさだって?
それが、そうじゃないんだよ。
荷車に乗せる作業は優しく詰めなきゃならないんだ。
ぎゅうって詰めて乗せちゃうと毛が痛んで上質な毛糸ができないんだそうだ。
でもでも、優しく乗せるってことはちょっとした風でもふわりと飛んじゃうわけで。
慎重に運ばないとふわふわ〜っとあちこちに毛が飛んでしまうんだ。
結構神経使うんだな、これが。

毛刈りの担当は、クレイとノルとトラップ。
クレイとノルがケイトーンの体を押さえて、トラップが毛を刈るんだ。
その押さえる作業がね、ケイトーンが暴れて転がるもんだから大変のなんのって!
見てるだけでも大変だってわかるもん。
ケイトーンの子供でもすっごい力強いみたいで、暴れだすと押さえきれないみたい。
だから、暴れだしたら素早く逃げるっきゃない。
ゴロゴロゴローっと勢いよく転がりだしたらしばらく止まらないんだよ。
んで。
ケイトーンが暴れだして一番被害にあったのは、クレイなんだよね。
毛刈り中に暴れだしたケイトーンが一番に向う先は、クレイで。
ケイトーンの移動の勢いでこけてしまい、踏み潰されちゃうんだ。
ノルとクレイじゃ力はノルのほうがあるから、自然とクレイのほうに向っちゃうんだよねぇ。
だからノルは申し訳なさそうに「すまない。」と謝ってる。
トラップ?
トラップはケイトーンが暴れだしたとたん、軽くひょいっと逃げる。
そんで、けらけらとクレイを笑って見てるんだよー!んもう!!

一番大変なのは、一匹暴れだすと他のケイトーンも興奮して暴れだしちゃう事。
「また、暴れだした!おい、赤ん坊は危ないから早く逃げろ!」
トラップたちの所にいたカガリが慌ててこちらに来てルーミィの背中を押す。
「あかんぼうじゃないもん!ルーミィだもん!!」
ぶぅぅ!!と頬を膨らませ怒るルーミィ。
「赤ん坊だろ?小さいし。邪魔邪魔。」
「ちいさいけど、じゃまじゃなーもん!かがいも、あぶあいもん!かがいもちいさいもん!」
「ばーか。僕は慣れてるからいいの!!!」
そう言ってカガリはルーミィの頭をくしゃくしゃっとする。
ルーミィはカガリをぽこぽこと叩いて何度目かの喧嘩がはじまってしまった。
最初は止めてたんだけど、今はもう、またかぁって見てるだけになっちゃた。
だってね。
カガリはきっとルーミィのことすごく心配してくれてるんだろう。
クレイたちと毛刈りをしていてるんだけど、ケイトーンが暴れだすとすぐにルーミィの所に来てくれるんだもん。
喧嘩してるっていってもルーミィが一方的にぽこぽこしているだけ。
まるで兄妹喧嘩みたいで、なれちゃえば微笑ましかった。



******


そんなこんなで、一ヶ月半くらいでわたしたちの担当した子供の牧場の毛刈りが終わった。
つまり、今日でバイトも終わりって事だ。
大八車にオーシに頼まれた毛糸玉の入った箱を10カートン積み込んでいく。

「あれ、ルーミィとシロちゃんは?」
「あぁ、ルーミィたちは牧場に行ったよ。カガリと分かれるのが寂しいみたいだ。」
クレイはそう言ってにっこり笑った。

最初はあんなに喧嘩して怒ってばっかりだったルーミィも、いまやカガリにすっかり懐いちゃったんだよね。
二週間経った頃には朝一番に起きてカガリのお手伝いに行くーって言うくらいにね。
そうそう。なんとなんと。
カガリって、わたしたちの担当している牧場の厩舎の掃除やえさやりを一人でやってたんだよ?
「毛刈りシーズンはみんな忙しいからね。」
って言って当たり前のように毎朝早くに起きて仕事に向ってたんだ。
それを知ったルーミィが「ルーミィもえさやり、したい!」ってカガリに言ったんだ。
カガリは厩舎の中なら危なくないからって、えさやりを教えてくれたりと、ルーミィを妹のように可愛がってくれたんだ。

「そっかぁ。じゃあ、迎えにいこう!」
わたしたちは、アミールさんにお礼を言い、バイトをしたケイトーン牧場に向う。

ワイワイと話しながらたどり着くと、
「なに………これ……!?」
我が目を疑ってしまった。
だってだって、厩舎が見るも無残にボロボロになってるではないか!
牧場のケイトーンたちは興奮して暴れまわっている。
そしてそれを唖然とした顔で立って見ているカガリと隣にはルーミィとシロちゃん。
「ね、ねぇ、どうしたの!?これ!?昨日には壊れてなかったよね!?」
わたしは慌ててカガリたちの元に向かい尋ねたが、答えが返ってこなかった。
答える代わりに、口をパクパクさせて壊れた厩舎の向こうを指差したと同時に!
 
「危険があぶないデシ!!!」
「………!!!」


人間って本当に驚いた時って声がでないんだね。
 
「パステル!」
「カガリ!」

突然厩舎の奥からヒュルルルルとツタが数本伸びわたしとカガリを掴み、ビュンと持ち上げるではないか!!
みんなの声が小さくなり、あっという間に厩舎が小さくなっていく。
その間はたぶん一瞬なんだけど、わたしにはスローモーションのように感じられた。

「うわぁぁぁ!!」
カガリの叫び声ではたと我に返り、わたしも叫ぼうとした。

が。

「……!!?????!!?」

またまた絶句。

だってだって。
わたしの真下になにが見えたと思う?

大量のツタの中心には大きな大きなモンスターの本体があったんだけど。
その本体にまるで口のような穴がぽっかり空いているんだよぉ!?
それも、なんだかその穴の奥には粘着質のあるネバネバとした液体が見える。
もしかして、あれって食虫植物!?
いや、いや、いや!
このツタがわたしたちを食べようとしてるとしたら…
食人植物!?
ちょっと、ちょっと、それって、わたしたち食べられるってことぉぉぉぉぉぉ!?
頭に浮かんだのは、あの口にほおりこまれ溶かされていくわたしの姿…
い、いや!そんな死に方いやだぁぁぁぁぁぁぁ!!

パチッと頬になにか当たった。
「いったぁーい!」
「おい、パステル!!ぼーっとしてる場合じゃないだろ!!」
声のするほう見ると、トラップだ!
彼の手にはパチンコが握られている。
どうやら、さっき何かをわたしの頬に当てたのはトラップらしい。
「ちょっとぉ、何するのよ!」
「うっせぇ、こっちも大変なんだよ!おめぇ冒険者なんだろ!?自分のことは自分でなんとかしろ!」
トラップは彼を捕らえようとするツタからひょいひょいと逃げながら、ツタを器用に登ってカガリの方へ向かった。
「パステルおねーしゃん、大丈夫デシか?」
「……シロちゃん!!来てくれたのね!」
「すぐお助けするデシ!」
シロちゃんががぶっとわたしの体に巻きついたツタに噛み付くんだけど、それだけじゃダメみたい。
ツタは痛そうな様子もみせず、ぎゅっとわたしを縛り付けたままだ。

……なんとか………しなきゃ…!!

わたしはふぅーっと深呼吸をして自由に動かせる腕を上下させた。
うん、大丈夫、大丈夫。まだ、腕は自由だ。
わたしはそう自分に言い聞かせて、ショートソードを抜く。
ああぁっ、心臓がバクバクしてきたぞ。

「し、シロちゃん、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど。」
「なんデシか?」
「ルーミィにフライをお願いって伝えて欲しいの。」
シロちゃんはわたしがやろうとすることをすぐに理解して、こくんと頷いた。
「がってん承知デシ!」
ツタを避けながら下へ降りていくシロちゃん。
下ではクレイたちが心配そうにこちらを見ながら、しかし襲いかかってくるツタに対応するのでいっぱいいっぱいみたい。

下にたどり着いたシロちゃんがルーミィにわたしのお願いを伝えたようで、ルーミィがこくんとわたしを見て頷いた。
わたしはもう一度大きく深呼吸をする。
大丈夫、大丈夫よ、パステル。
わたしは、冒険者、戦うのよ!

「でぇぇぇぇぇぇぇぇい!」
掛け声とともに、わたしを縛り付けていたツタを切りつける!
うぅ、だめだ!!まだ全部切れてない!
半分ほど切れたツタがぐなりと曲がり、天地が逆になりそうでちょっと怖いけど…もう一度!
「でぇぇぇぇぇい!」
さっき切りつけたところを狙って切りつけるとバツン!とツタが切れた!

「やったぁぁ!!」
自由になったけど、すぐに地面に落ちる!って瞬間ふわりと止まった。
よかった…!作戦通りだ!
そのまま、ゆっくりと地面にたどり着くと、ルーミィがばふっとわたしの胸に飛び込んだ。
「ぱぁーるぅ、ルーミィ、ちゃんとふあい、できたお!!」
「うん、ルーミィ、偉い!ありがとう!!!!」
がしっとルーミィを抱きしめる。
「よかった、パステル。」
ノルは伸びて襲ってくるツタをクレイから借りたのだろう。ショートソードで切り裂きながら、にっこりと笑った。
「そ、そうだ、カガリは?」
「大丈夫だよ。」
ノルが指差した先には青い顔をしているカガリの姿があった。
「よかったぁ!あ、キットン、このモンスターなんなのよ!?」
「ちょっと待ってくださいよぉぉぉ、あ、ありました!ツベラレルというモンスターです!」
「で、弱点は!?」
「炎ですね。」
「ファイヤーするかぁ?」
「熱いのデシするデシか?」
「いえ、暴れているのに炎をつけたらどうなります?あちこち飛び火しますよ。」
「じゃあ、他には!?ツタを切っても全くダメージないみたいだぞ!」
クレイが汗をかきながらツタを切っているけれど、本当、全くダメージがないみたい。
「ええ、ツタは攻撃のダメージを受けません。あの本体に攻撃しなければ意味無いそうです。」
「え!じゃあ、遠距離攻撃?クロスボウの出番ね!」
わたしが意気揚々とクロスボウを組み立てようとすると、
「ぶぁぁか、あのツタを抜けておめーの矢が当たると思うか?オレ、当たんねーほうに100G。」
「ぶぅーー!なにそれ!じゃぁ、あぁーたのパチンコで攻撃しなさいよ!」
「オレでも無理だったちゅーの!威力も足らねぇし。あのツタの量見ろよ、なんか増えてるし。」
「えぇぇぇぇ!?」
わたしは目をこすってツベラレルを見た。
………確かに、なんか、増えてる!?
「あぁぁぁぁぁぁ!」
キットンが馬鹿でかい声で叫んだ。
「な、なに!?」
「このツタ切りつけると増えるようです!ぎゃはははは!参りましたねぇ!」
場違いな笑いにポカンとげんこつをしたのは言うまでもない。
「でも、じゃあどうするのよぉ?」
「ぱぁーるぅ、つた、ぐっちゃぐっちゃだおー。もつれちゃうおー。」
ルーミィがのほほーんとツタを指して教えてくれる。
「うんうん、本当ぐっちゃぐっちゃね。今はそれどこじゃないんだけどね……」
「あぁぁぁぁ!!」
「んもぉぉ!今度は何!?キットン!?」
「毛糸を使いましょう!」

………。


「はぁぁぁぁ?」
「あれだけのツタが絡まったら、どうなります?動けなくなるでしょ?」
「そりゃそうだけど…それでなんで毛糸??」
「意図的に絡ませるんですよ、絡んだツタを毛糸を結んでやるんです。」
な、なるほど。
毛糸を使って、ツタをめちゃくちゃに絡める作戦ってわけね。

「最初にツタのどれでもいいです。毛糸玉の毛糸を結んであとはその毛糸を伸ばしながらツタを縛りつけましょう!」
「それ、最初の作業って危なくない?結構素早くやらないとダメだよね?」
「そうそう、そんなの誰がやるんだ…ってあんだよ…おめぇら……まさか、オレか!?」
みんな視線が集まったのはトラップ。
この中で一番適役っていったらトラップに決まってるじゃない。

「おや、無理ですか?逃げ足の速いあなたならできると思うんですけど?」
「だぁぁっぁぁ、ったく、わぁったよ!」
トラップは仕方なさそうに大八車に乗せられた毛糸の入っている箱を開けて、
「おい、クレイ!受け取れ!」
ぽいっと、一個トラップが毛糸玉をクレイに投げ渡す。
「え?」と言う顔でトラップのほうを向き投げられた毛糸玉を慌てて受け取る。
「俺も最初に結べばいいのか?」
「いんや。おめーにはもっと重要な役割があるんだよ。」
ニヤリと笑うトラップにクレイは怪訝そうな顔をした。
「なんだよ、重要な役割って。」
「毛糸を上から絡ませる役だ。」
「はぁ?」
「ま、行って来い!」
ぽんっとトラップが背中を押すと同時に!
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
「ちょ、ちょっとトラップ、なにしてるのよ!クレイ捕まっちゃったじゃない!」
そうなのだ。
ちょうどクレイが押された先に襲いかかっていたツタが、クレイを捕まえてしまったのだ。

「ケケケ!あれでいいの!おーい、クレイちゃーん、大丈夫かぁ?」
「トラップ、お前…なにするんだよ…!」
「あ、ちゃんと毛糸持ってるな!よっし、その上から毛糸を絡ませろ!」
「はあああああ???どうやってだよ!」
「そりゃ、てきとーに毛糸振りまいてりゃ絡まるだろ!じゃ、よろしくー!」
「………あのなぁぁ!!」
クレイは怒鳴りながらも、しぶしぶと毛糸を振り回した。
おぉ!?なんだか、あれだけでも結構ツタ、絡まりそうだぞ?

「よっし、あとは、おめぇら一人ひとり分の毛糸を結んでくるぜ!」
トラップはそう言って毛糸玉を箱から取り出し、ツベラレルのほうへ消えたかと思うと、すぐにこちらに戻ってきた。
「ほれ、これおめーの分。」
「えぇ!?もう結んできたのぉ?」
「あったりめぇーだ。ほれ、ノル、キットンも!これはルーミィの分だ。シロ、ルーミィの先導、頼んだぞ。」
「がってん承知デシ!」
「ね、ねぇ、ルーミィもまさかやるの?ダメだよ、危ないよ、ルーミィ。」
カガリが心配そうにルーミィを見ると、
「ばあーか、ルーミィなえてうかあ、いいの!」
にぃっとルーミィが笑っていった言葉、どこかで聞いたぞ。
「おっし、てめぇーら、適当に走りまくれ!ツタに捕まるんじゃねぇぞぉぉ!!」
トラップの言葉をきっかけにみんなバラバラに走り出した。
「………パステル、僕もルーミィと一緒に戦うよ!」
カガリがルーミィの走ったほうへ向った。
むむぅ、ルーミィとシロちゃんとカガリのトリオ?
だ、大丈夫…かなぁ…??
「ほれ、おめーも、ぼけれーっと立ってねぇで、走った走った!」
トラップはそう言い、今度はツベラレルの本体に近いほうへ消えていった。

むむぅ、仕方ない、やっぱり心配だからルーミィたちを追いかけよう!
わたしはトラップから渡された毛糸玉をひっぱり伸ばしながらルーミィを追いかける。


「ぎゃぎゃぎゃ!クレイ!私に毛糸を降らせないでください!」
「うぉっととと!おれのところにも降らせないでくれ。」
「す、すまん!キットン、ノル!」
「あ、あれれ?ちょ、ちょとぉぉぉ!ここどこぉぉぉ!?ルーミィィ!?」
「パステル、おめー、ツタんなかで迷子になるなよなぁぁ!!」
「ぱぁーるぅ、ルーミィここらおーー!!」
「わんデシ、わんデシー!」
「よそ見してたら危ないよ、ルーミィ!ツタが来た!」


きゃあきゃあ言いながら、時には自分自身も毛糸に絡まりそうになりながら。
それぞれ受け取った毛糸玉から毛糸を出してツベラレルのツタを絡めていく。
毛糸玉が無くなった頃を見計らってトラップが「第二段だ!」と新たに毛糸玉を持ってくる。
どんどんどんどん、絡まっていくツベラレルのツタ。
うへぇぇ、これ上から見たら、どんな風に見えるんだろう??
「…クレイーー!どう?ツベラレルの様子はーー!?」
「うん、どんどんカラフルな毛糸玉になっているようだ!!」


ツベラレルは思い通りに動かなくなる自分のツタに苛立ち、キィィィィと暴れだす。
が、それが余計に自分自身のツタを絡めてしまう結果になってるみたい。
苛立ちが最高潮になってしまったツベラレルはクレイをぶんっとほおり投げたではないか!
「うわぁぁぁ!」
落ちる!!
と思ったんだけど。
下で絡まりまくったツタが網が上手い具合にクレイを受け取っていた。
よ、よかったぁぁぁ!!!!

「よっし、最後のとどめだ!!クレイ!!!」
トラップの声でちょっと放心状態だったクレイがはたと我にかえった。
「わ、わかった。」
クレイは剣を鞘から抜き、でぃやぁあ!!とツベラレルの本体を切り裂いた!
「ギェェェェェ!!!」
ツベラレルの断末魔が牧場に響き、そして、どぉーーんと砂煙を上げて倒れたのである。



       !!!!!!!!!!!!!!


    「や、やったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
みんなでいっせいにバンザイをして、手をとりあい、踊りあう。

「パステルたちって本当に冒険者だったんだ!」
「か、カガリ、ちょっと、本当にって…どういうこと…!?」
「ごめん。だって、パステルたちすごく頼りなさそうだったからさ。ルーミィもすごいね。魔法、上手じゃないか!」
「そうだお!ルーミィ、すごいんら!」
えっへんとルーミィがえばったポーズをする。
「それに、そのシロ!!しゃべったりできるんだ!」
カガリの言葉に「あっ。」とわたしたちは顔を見合わせた。
ど、どうしよう……。

「あおね、かがい、しおちゃんのことあ、ひみつなんらお。」
「秘密?」
「そうら、きぎょーひみつなんらお。ないしょなんらお。」
き、企業秘密って、どこで覚えたのルーミィ…
「企業秘密…か。」
カガリはルーミィの言葉を繰り返した後、転がっていた毛糸を拾って笑った。
「……うん、わかった!シロのこと内緒にする。だから、ルーミィもあれ、内緒だぜ!」
にこっと笑い、カガリは手に持った毛糸をルーミィに手渡した。
ルーミィはにぃっと笑ってわたしを見上げた。
「あおね、このけいとがじょうぶなお、きぎょーひみつなんら!!!ルーミィ、ぱぁーるにも言わないお!」
「……!そうかぁ、あんな大きなモンスターが暴れても切れない秘密知りたかったなぁー。」
ぞういうとカガリは満面の笑みでにぃっと笑って言った。
「絶対に秘密だよ!」



MOMOの裏話。
FQお題でGO!のお題、「毛糸」に投稿した作品です。
パステルがショートソードで戦うシーンが一番書きたかったシーンです。
本当は野生のケイトーンが襲ってくる、
という構想だったのに、なぜか影に隠れてしまったケイトーン。
アミールさんとカガリの親子関係とかもあったんだけど、
ぐだぐだになってしまったので没。
クレイがケイトーンキラーな設定だったんだけど、色々あって没。(笑)
クレイは色んなキラーになるなぁと思った冬でした。

ファイル作成日:2010年12月28日


(C)深沢美潮/迎夏生/角川書店/メディアワークス


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