〜雨嫌いな雨神様〜


急にざあざあと降りだした雨にわたしたちは慌てて近くの村にかけこんだ。

「いやぁ、参った参った。いきなり雨が降るとはな。」
「もうそろそろ雨季ですからねぇ、しかたないです。」
「うへー、すげー濡れた。みてみそ。」
トラップは濡れた服を脱いでぎゅうっと絞ると水がぽたぽたと乾いた地面に落ちた。
いいよなぁ…そういうことできるんだから。
羨ましそうに見ながらわたしも服のすそのほうだけでも、って絞っていると。
「あんたも遠慮せず、すれば?」
「ばかものー!」
ぽかっとげんこつしようとしたらひょいっと逃げニシシと笑った。
ったくぅー。

「不思議だな。ここから雨が降ってない。」
うん。ノルの言うとおり。
さっきの森ではバケツをひっくり返したくらいの大雨だったんだよ。
だけどこの村に入った途端、雨が止んだんだよね。
地面が乾いているということは、さっきまで雨だったってこともなさそうだ。
「ねぇ、ぱぁーるぅ、あっちはおそあ、黒いおぅ!」
クレイにごしごしとタオルで頭を拭いてもらっているルーミィが森の方を指差した。
本当だ。
確かに先ほどまでいた森の方の空は真っ黒な雨雲が空を覆っている。


「こんにちは!ここ、いい天気でしょ?」
「うわっ、びっくりしたぁ!!」
突然声をかけてきたのは、10歳くらいの少女。
ふわふわとしたウエーブのかかった長い白色の髪が印象的だ。
手には大きな大きな傘を持っている。

「おねーちゃんたち、びしょぬれだね。」
「う、うん。さっきまで森にいたの。急に雨に降られちゃって参っちゃった。」
「そう。雨って嫌い?」
「うーん、確かに困る事もあるけど…。雨がないと困るでしょ。」
わたしがそう言うと、少女は「……そうね。」と嬉しそうに笑った。

「ところで、あなたはこれから森に行くの?大きい傘持ってるから濡れないね。」
「ううん、違うよ。これはね、お祭の傘。」
「おまちゅり!?」
お祭という言葉に目を輝かしたのはルーミィだ。
「うん。この村の隣村で開催しているの。」
「どんなお祭なの?」
わたしが尋ねると少女はにこっと笑って、
「行って見て、参加すれば分かるよ!おいで、村まで案内してあげる!」
そう言って少女は手招きをした。


*****


少女に案内された村は、お祭の準備で活気にあふれている。
屋台を組み立てたり、飾り付けをしたりと忙しそうだけど、楽しそうな笑顔。
そして村の中心の広場では沢山の人達が大きな傘に絵を描いていた。
一人で一本の傘に絵を描いている人もいれば、大勢で描いている人達もいる。
そういえば、先ほどの村でも傘に絵を描いている人達がいたっけな。

「あれは、なにをしているの?」
少女に尋ねたのだけれども、先ほどまでいた少女がいつの間にか消えていた。
「あれ?クレイ、あの子どこいったの?」
「え?あれ?いつの間に…はぐれたのかな?ノル、分かるか?」
背の高いノルなら遠くまで見通せるだろうと思ったんだけど。
「あっちに、いった。それから、分からない。」
と、困った顔で答えた。
「うーんとりあえず、女の子の行った方向へ行ってみようか。」

少し歩くと、『アメフル祭・イベント参加受付所』と書かれた看板がある場所に着いた。
看板の下には『本日受け付け最終日』と紙が貼り付けられている。
受付所には数人の受付の人が座って談笑をしていた。
「こんにちは。ちょっとお尋ねしたいのですが。ここに白くて長い髪の女の子、来ませんでした?」
クレイが尋ねると受付の人達はあぁ、という顔をした。
「もしかして、その子にお祭に参加しないって誘われませんでした?」
「え?えぇ。」
「やっぱり。…うん、その女の子なら大丈夫ですよ。ところで、みなさんお祭に参加されますよね!!」
「ふへっ??」
急な受付の人の問いに戸惑うわたしたちにかまわず彼女は、机の下から一本の傘をとりだした。

「お祭ではみんなそれぞれデザインした傘を雨神様にプレゼントするイベントがあるのですよ!」
「ふぇ?神様にプレゼント?」
「はい。ちょっと昔話につきあってくださいね。」


――――――――――――――――


受付の人のお話

何百年前のお話です。
この地域の雨神様がご隠居するにあたり、新しい雨神様がやってきました。
その雨神様、なんと雨が嫌いというではありませんか。
雨を降らせる雨神様が雨嫌いだと、さあ大変。
この辺りの地区一体には雨が降らなくなってしまいました。
困った人たちは雨神様に雨を好きになってもらおうと色々考えました。
どうやったら雨が好きになるだろう?
うんうんと考えますが、いい案は浮かびません。
そのとき、小さな女の子が悲しそうに新しい傘をくるくる回しながらいいました。
「あーあ。雨が降らないとこの傘、させないよ。せっかく可愛い傘を買ったのに。」
その言葉に村人たちにいいアイディアが思い浮かびました。
そうだ。雨神様に雨を降らしたくなるくらいの傘をデザインしてプレゼントしようと。
この地域の人達はみんな集まり、みんなで色んな傘をデザインしてプレゼントしました。
雨神様は大喜び。
色々な傘をさしてはくるくると楽しそうに踊ります。
でも、雨は降りません。
そこで村人たちは言いました。
「きっと、雨の中この傘をさしたらもっと楽しいでしょう。」
雨神様はそれもそうね!と雨を降らせたのでした。
それから毎年雨季に入ると同時にこの地域では雨神様に傘をプレゼントするお祭を開催することになったのです。
そう、雨嫌いな雨神様が雨の始まりを楽しめるようにと。

――――――――――――――――


「今日が準備の最終日、明日がお祭の本番です。参加料は傘一本100Gです!」
「参加料とるのかよ!」
「はい、傘の料金とペンキレンタル代です。参加賞もありますのでお得ですよ。」
「参加賞って何ですか?」
「飴です。傘一本に一袋は必ずもらえますのでご安心ください。」
「飴って、おいおい。シャレかよ。」
トラップの皮肉な台詞にも彼女は動じない。
「はい!おいしい飴ですよ!最優秀賞は飴がたくさんもらえますよ!」
「ルーミィ、あめ、たくさんほしいお!」
「わんデシ!」
「どうするー?」
クレイに尋ねると、
「こんな寄り道もいいかもね。一本だけもらって参加しようぜ。大きい傘だけどみんなで描けば今日には間に合うさ。」
と、懐から財布を取り出して100Gを受付の人に渡した。
「ありがとうございます。ではここに代表者の氏名と住所と参加人数をお書きください。」
「はいはい。」
「傘は今日の夕方には提出してくださいね。」
受付の人は傘と色んな色のペンキ缶をクレイに渡した。
「このペンキは傘を提出時に返してください。足りない色があればこちらに申しつけくださいませ。」
なんと、ハケはちゃんと人数分レンタルしてくれるみたい。
「それと、ペンキは水で落ちないので、洋服につかないようにこのカッパをどうぞ。」
「わわ、カッパも人数分!?これ別にレンタル代が……?」
「いいえ。参加費に含まれています。カッパはお祭のあとに必ず返してくださいね。」
「なんで、カッパは祭の後なんだよ?」
「ふふふ、それは、お祭になればわかりますよ。」
意味深に笑う受付の人の笑顔……なんだ、なんだぁ?


受付所を後にしたわたしたちは、早速傘に絵を描くための空いたスペースを探す。
「ぱぁーるぅ、あしょこ!」
ノルに肩車してもらっているルーミィが指したところ、うん。確かに空いてる。
わたしたちは、傘を広げ、それを中心に輪になって座った。
「ねぇ、どんなデザインにする?」
「そうだなぁ……他の人達がどんな風に描いているか見てから決めるか?」
「偵察か。おっし、オレにまかせろ!」
「トラップ、お前はダメだ。どーせカジノに逃げるつもりだろ?」
「ちぇっ。」
「では、お題『雨』でどうですか?雨から連想するものを描くのです。」
「あ、それいいかも!」
「虹…。」
ぽつりとノルが恥ずかしげに手を挙げながら言った。
「ふむ、なるほど、雨が降らなければ見えないですね。」
「カエルしゃんデシ!」
「そうですそうです。その調子。」
「傘…じゃ、だめだよなぁ。」
「あめ、甘くておいしぃおー!」
「それは雨じゃなくて飴ね。参加賞の飴楽しみねー。」
わいわいとみんなそれぞれ思い思い案を出していった結果。
わたしたちが傘のデザインに決めたのは、『ニジイロキノコ』だ。
『ニジイロキノコ』とは名前のとおり虹色で見た目派手な毒キノコのようなんだけど。
なんとなんと、飴の原料にもなるそうだ。
貴重なキノコでなかなかお目にかかれないんだ。
なぜなら、雨の日にしか生えないんだって!
雨の日にしか生えないなんて、雨ってお題にぴったりじゃない?

わたしたちはキットンのキノコ図鑑を参考にしながら『ニジイロキノコ』を傘に沢山描いていく。
遠くからみたらカラフルな水玉模様にみえるデザインなんだよ。



*****


翌日、ぽんぽんという花火の音で目が覚めた。
宿屋の外に出てみると昨日より大勢の人達がごった返している。
昨日は準備中だった屋台も今日は開店していい香りでわたしたちの食欲を誘う。
屋台って本当、罠だよね。
ついつい色々食べ物を買ってしまった。

そしてお昼12時ちょうどにお祭の一番のイベントが始まった。
そう。雨神様に傘をプレゼントするイベント。
村の中心に広い舞台が作られていて、その前にみんな集まっている。
舞台には参加者全員の傘が並んでいる。
もちろんわたしたちがデザインした傘もね。

ピーヒャララ、ドンドン!
笛と太鼓の音とともに舞台の中心に現れたのはイベントの総司会者だ。
マイクを持ってニコニコと開会宣言。
「みなさーん、おまったせしました!メインイベントの始まりですよ!」
「わぁぁぁぁぁ!!」
「まってましったぁー!」
会場が熱気に包まれる。
「さて、その前に、みなさん。カッパはちゃんと持ってきましたかー?今から着てくださいねー!!」
「もちろん!」
「えぇー、いるのー?」
「もってきたー。」
「忘れたーー!」
それぞれの声があちこちから聞こえる。

「カッパはお祭の後で返してって…ここで使うからなんだ。一応持ってきておいてよかったよ。」
わたしたちはいそいそと昨日レンタルしたカッパを着ていく。
よっし、これで準備OKってことね。
でも、どうしてお祭でカッパ着るんだろ……??
雨神様のお祭だからかな?傘じゃだめなのかな?
わたしの疑問に答えたのは偶然にも総合司会者だ。
「おっと、傘はささないでくださいねー。今日の傘は雨神様だけのものですよー。」
なるほどね。
今日のお祭でかさを使っていいのは雨神様だけなんだね。

「さって、着ている人も着ていない人も、もうそろそろ雨神様呼びますよー。」
「はーい!」
「えぇ!待ってー。」
「もー、どーにでもなれー!」
「呼ぶときはせーので、『フルル様ー』と呼びますよー!」
「わかってるー!」
「待って待って!!」
またそれぞれの声があちこちから聞こえる。

「ねぇねぇ、呼ぶって…まさか、来るの?雨神様が?ここに?」
「来るんじゃないですかねぇ。」
「ま、ウギルギみたいな奴もいるからな。」
た、確かにね。
ウギルギ様も神様だけど、普通に会えたりするものね…。


「せぇぇーのっ。」
「「「フルル様ーーー!」」」
会場の声が雨神様の名前を読んだ途端!
もくもくもくっと雨雲が村の空を覆い、ひゅうっと雨のにおいの風が吹いた。
何が起こるんだろう?
わくわくと舞台を見ていると。
なんとなんと!
舞台の一番右端の傘がふわりと浮かんでぽんと開いたではないか!!

「ふあ!も、もしかして、来たの?あれ、見てるの?」
誰に尋ねるでもなく聞くと、
「おぉー!フルル様が傘を吟味されていますよー!」
またまた偶然にも総司会者が答えてくれた。
おぉぉぉ、本当に来ているんだ!
んで、神様が本当に選んでくれるだなんて、すごい!

「くるくるまわしてうー。」
「わんデシ。」
そうなの。
不思議に浮かんだ傘がくるくるとまわってる。
まるで、神様が傘を開いて遊んでいるみたい。
神様の姿はみえないけど、そんな様子にみえる。

くるくると傘が3回くらい回ったくらいかな。
「きゃっ、つめたっ!」
鼻の頭に水が落ちてきたかと思うと。
雨がざぁっと軽く降ったではないか!
「「「おおおおおおおお!」」」
雨と同時に会場がどよめく。
疑問符だらけの人達は、たぶんわたしたちと同じように旅の人達だろう。
「この雨、なんですか?」
わたしは隣にいた人に尋ねると、
「あぁ、雨神様があの傘を気に入った証拠だよ。雨の量が多いほどお気に入り度が高いんだ。」
と教えてくれた。
だから、カッパが必要なわけね。
あぁぁー。でもそれって、忘れちゃってる人達は雨でびしゃびしゃになるんじゃない?

わたしの予感は的中。
雨神様(見えないけど)が傘を開いてくるくるするたびざぁっと雨が降るもんだからたまらない。
夏前で寒くはないから、わざと雨に濡れて楽しんでいる人達もいるみたいだけど……

しばらくすると、いよいよ、わたしたちの傘が吟味される番だ。
「わわ、あれ!」
わたしは右隣にいたトラップの腕をつんつんとすると、彼もうんうんと頷いた。
「いよいよだな。」
ごくりと左隣からクレイの喉の音か聞こえてきた。
わたしたちの傘が舞台の中心でぽんと開いてくるくると回る。

ドキドキドキドキ。
どのくらいの雨が降るかな?
自分たちの審査を待ってる時間ってどうして長く感じるんだろう。
他の人達とそんなに審査の時間は変わらないはずなのにね。

そしていよいよ雨がふ……
 
どじゃぁっぁぁぁぁあああああああああああ!!!!

降って来た雨は、バケツをひっくり返したような大雨だったのだ!!

「うわぁっぁぁ!ちょ、ルーミィ、シロちゃん大丈夫!?」
慌ててルーミィを見ると、ホッ。
ノルが上手い具合にルーミィとシロちゃんをかばっていた。
「どうやらおきに召したようですねぇ。ぐふふふふ。」
気に入ってもらえたのは嬉しいけど。
うえぇぇぇ、ちょっと、これ、降りすぎでしょーー!痛いよ!


*****


約3時間後すべての審査が終わった。
わたしたちの結果はといいますと、当然!

三位でした。

うん、つまり、あの雨よりものすっごーーーい雨が降ったんだよね。
まるで滝の修行だったよ……

優勝者の傘のデザインは、雨。
大きな水滴で雨を降っている様子をデザインしたんだって。
そして大きな文字で「雨、大好き!」って書いてあったんだ。
その作者はなんとなんと!
8歳の男の子だったんだよーー!


「最後に雨神フルル様からお言葉があります、どうぞ!」
総司会者の人がマイクを舞台の真ん中に置いたマイク台に差し込んだ。
少しして、澄んだ綺麗な声が聞こえた。

「みなさん、今年もありがとうね!」
…あれ?…この、声、どこかで聞いたような……?
「私、雨って大嫌い。でも、このお祭は大好きよ。みなさんは、雨、好き?」
雨神様は一呼吸おいてつづけた。
「みんな、教えて欲しいな。………いい天気ってなぁーに?」
雨神様の問いにお祭に参加人達は目を合わせて小さな声で、せぇーのと言った。

「「「「「「「あめーーーー!!!」」」」」」
そう叫ぶと爽やかな風が吹いて、優しい雨が降り始めた。


******


「うーん、でも、あの雨神様の声どこかで聞いたようなきがするんだけど…」
「あ、パステルもそう思った?」
「クレイも?」
「私もそう思いました。」
「ルーミィも!」
「おれも。」
「ぶあぁぁか、おめーら、ここに来た時聞いただろ?村の祭に案内したあいつだよ。……ってあれ?」
「トラップあんちゃんの言うとおりデシ。においもそうデシ。あの女の子、神様だったんデシね。」
シロちゃんの言葉にみんなの口が金魚になったのは言うまでもない。




MOMOの裏話。
FQお題でGO!のお題、「あめ」に投稿した作品です。

雨神様が雨嫌いになった理由
・雨神様先代に外の地域を回った時に雨が降るとほとんどの人間が嫌な顔をした事。
・「天気になあれ」又は、「良い天気」=「晴れ」という事。
・天然パーマなので雨が降ると髪の毛の手入れが大変。
 
雨神様と地域の人達の関係
・先代とは悪友的に付き合っている。
・地域の人達は雨神様をまるで子供のようにかわいがり見守っている。
・雨神様は地域の人達に自分の姿を隠しているつもりだが、ばれている。

という設定を考えたものの、それが文章で表現しきれてないのが残念です。


「雨」は時に災害をもたらします。
だけど、必要であり、なければまたそれも災害なのです。
「雨」は恵みを与えてくれるのです。
人間の勝手な願いだけで降ったり降らなかったりと自由に決めれるわけじゃないです。
神様だってわがままなんですよ。
うまくつきあっていてたら、素敵ではないですか。
そんなメッセージを含んでいますが、ここで書かないと分からないですよね…
精進します。

 
ファイル作成日:2011年 7月28日


(C)深沢美潮/迎夏生/角川書店/メディアワークス


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