〜感情変化 ・過去編〜
ビットールは物心ついた頃には自分が家族の誰にも似ていない事に気づいていた。
鏡に映る自分の顔は両親にも、兄にも、祖父母にも似ていない。
とくに特徴のある長い鼻は、まるで怖い魔法使いのようだ。
さらに、両親はビットールに愛情を注ぐ事をせず、兄のフレンツのみに愛情を注いでいた。
自分には全く見向きもしない。
(どうして?やっぱり、ぼくは、よその子なのだろうか?必要ないのだろうか?)
悲しく、そして、兄が羨ましくて仕方ない。
どうやったら兄の様に愛情を注いで貰えるかと兄の事を見ていた。
兄はいつも笑っていた。
(笑っていれば愛されるのか。)
ビットールは常に笑っているように心がけた。
それは言葉の最後が含み笑いのようになってしまう癖になる。
奇妙な癖のある喋り方に、さらに両親が避けるようになる結果をもたらした。
ある年、ビットールは兄とメーロス家の歴史を調べる事になった。
ビットールが兄に自分はもしかすると家族と血が繋がらないのではないか、だから容姿が違うのだと泣きついたからだ。
兄はビットールに言った。
「そんな事はない!長い歴史の中にビットールと同じ様な顔をしている先祖がいるはずだ。」
しかし、先祖の中にビットールと同じ容姿を見つける前にメーロス家の呪いの歴史を見つけてしまったのだ。
兄はもちろんビットールも青い顔になり、本を閉じ、見なかった事にしようと誓いあった。
それからしばらく年月が経っていったある日のことだ。
呪いの事をビットールが忘れかけていた頃だろうか。
今までずっと縁談のなかった兄が結婚したのである。
しかも自分好みの女性と。
兄は両親の財産を得、女性を得、さらには可憐な娘を得ていく。
ビットールはただただそれが羨ましく、また妬ましかった。
兄の事は尊敬している。
両親から向けられない愛情を兄は注いでくれた。
またこんな容姿の自分を信頼し、仕事に協力してくれるようにと頼んでくれた。
ようやく自分もメーロス家の一員だと認めて貰えたようで嬉しかった。
兄には感謝すれど、恨むことをするのは間違っているとは思うこともあった。
しかし、ビットールの中にある負の感情は年月と共に成長していたのだ。
ある時ある夜、ビットールはやけ酒を飲むため路地裏の居酒屋に入った。
その日は不気味に月が赤かった。
ビットールは酒をグビクビと飲んで机に突っ伏し、しばらく泣いた。
「……なぜ…兄さんばかり…全てを手に入れるのだ…。……なぜわたしは兄さんじゃないのだ…」
ぼそりとつぶやいた時にふと声がかかった。
「ならば、奪えばいいではないか。」
ビットールは声の主の方へ顔を向けた。
不気味な雰囲気の目深にフードを被った男だった。
ビットールはその姿を見て、忘れかけていた幼い頃にみたメーロス家の呪いを思い出した。
「呪いで兄から全てを奪いとれ!奪えば全て自分のものだ!」
心の中でで成長していった負の感情が爆発したのだ。
兄の代わりになれば兄のように愛される自分を想像し思い怪しく笑う。
自分へ一番愛を向けてくれている相手を呪う事になるのも躊躇できないほどに、感情が黒く染まる。
尊敬が憎しみへと色を変えていく様を謎の男は不適な笑みで見守り、ふっと消えたのである。
MOMOの裏話。
またまた謎の行商人(フードを被った男)とからめてみました。
ブログで思うがままに書いたところ思わぬ反響がありびっくしした作品であります。
フレンツのビットールが両親から愛されなかったという言葉から一気に妄想が膨らみできた作品です。
同時に未来の妄想もしてしまうのでした。
ファイル作成日:2012年10月27日
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