ある雪の日

手が凍るんじゃないかって言うくらい寒い日。
カーテンを開けると目の前は白銀の世界になって。
旅館のおかみさんに頼まれて雪かきをすることになった。
私とトラップは庭の担当で、クレイととキットンとノルは道を担当ってことになった。
道の方を早くやらないといけないから三人体制なんだよね。
ルーミィはさっきから一生懸命雪で何か作ってる。

「ぱぁ〜る、みちぇみちぇ。うしゃぎさん〜!」
小さな両手にこれまた小さなゆきうさぎ。
「かぁいい!?」
「うん、かぁいい!」
大きなブルーアイをきらきらさせてるルーミィが一番かぁいいよ!
思わずぎゅぅ〜って抱きしめてしまった。
「くぅしぃお〜、ぱぁるぅ。」
「あ、ごめんごめん。」
「くりぇーにもみせお〜!しおちゃん、いこ!」
「はいデシ!」
「あぁ、走ったらこけるよ!」
「らいじょうぶらお〜。」
って本人は言うけど、見てる側としてはすごく心配。
だって何度も雪に足をとられてるんだもん。

「ったく、ガキだよなぁ。雪ぐれぇであんなに喜んでよ。」
ふと後ろから声がした。
トラップだ。
「しょうがないじゃない。トラップだって子供の頃喜んでたでしょうに。」
「んなもん、忘れた。」
ったくぅ。

でもさ、子供じゃなくても雪みるとはしゃいでしまうものじゃない?
私もそう。
カーテンを開けてはしゃいでしまったもの。
今もまだウキウキしている。
誰も足跡つけてない所に足跡つけたいなぁとか、雪だるま作りたいなぁとか。
まるで子供のようにはしゃいでる自分がいる。

「なぁに、考えてんだ?」
「…トラップは雪投げだぁってかんじよね。」
「は?」
「あ、ううん、気にしないで。」
危ない危ない。
私も雪見てはしゃいでるの、なんて言ってみなさい。
ぜぇったいトラップにからかわれるんだから。

「…ご期待にこたえよう!」
「え…ってつめた!」
思いっきり顔に雪をぶつけられた。
やわらかいからそれほど痛くないけど…
「急になにすんのよぉ!」
「だぁら、おめぇのリクエストに答えてやったの!」
「な、なによそれ〜!」
べぇって舌出してケラケラ笑い出した。
なにか、なにか、仕返ししなきゃ。
でも私が雪を投げたってトラップ逃げ足速いから当たらないだろうし。
どうしてやろう?

「ん?次のリクエストはなんだ?雪投げごっこでもすっかぁ?ぱ・す・て・る・ちゃんv」
むぅぅぅ!馬鹿にしてぇ!

「かまくら作って!」
「は?」

適当に出た台詞。
だけど、これはいいかもしれない。

「私が入れるくらいのかまくら、作ってよ!」
「一人でかぁ!?」
「一人で!」
すごく困った顔。
自業自得だよ。
リクエストに答えるなんていうんだもん。
私が思いつかなくて困る姿みたかったんだろうけど、残念でした。
でもどうせどうにか上手く言って逃げるんだろうけどさ。

だけど私の予想は外れた。

「わぁった!しゃぁねぇなぁ!」
珍しく口答えしなくて驚いた。
…もしかして、勝った!?

「やったぁ!」
「ったく、ガキめ。」
喜んだのはトラップに口で勝ったことなんだけど、トラップは勘違いしたみたい。

「ガキでいいもぉん。」
「あぁ、そうですか。」
トラップはぶつぶつといいながら私たちが今まで集めた雪を見た。
「あれも利用してもいいよな?」
「えぇ〜?」
「大体、オレ達仕事中だしよ!うん。おめぇも仕事ついでに手伝え。」
「う、そりゃまぁそうだけど。」
あぁ、勝ったんだけどなぁ…ちょっとしたことだけど。
もしかしたら勝った、つもりだったのかもしれない。
ここまで計算して、「わぁった」なんて言ったんだ、きっと。
やっぱりトラップにはかなわないや。
でも、いつかトラップを困惑させてやるんだ。

「うん、分かった。そのかわりに。」
「そのかわり?」
「二人くらい入れるやつ作ろう?」
「なんでだよ?」
「一緒に入りたいんだもん!」
「んなっ!?」
「ルーミィとシロちゃんとさ。あ、だったら二人と一匹かなぁ…ってなに赤くなってんの?」
「な、なんでもねぇよっ!」
「?」
「とにかく早く雪かきしようぜ!」
「うん、そだね!」

なんか話変えられたような気がしたけど…ま、気にしないことにしよっと!



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