おみやげ
時計を見ると、もう12時を回っていた。
まだアイツは帰ってこない。
ったく、ったく。もう寝てやろうか。
勝手にカジノに行ったんだもの。
待てって言われたわけじゃないしっ!
寝よう!
私がそう思った時バタンと扉が開いた。
「たらいま〜!あれ、パステルちゃん、待ってくれれたのぉ〜?」
そう言って千鳥足で帰ってきたトラップ。
「たらいまー、じゃないわよ!こんな遅くまで帰らないなんて信じらんない!」
私は今まで着ていた上着をトラップの肩にかけてやった。
「あったけぇー。」
ふにゃんとした顔してトラップは私の左肩に頭を落とした。
ったくぅ、しょうがない人!
開いたままの扉の外をみるとちらほらと雪が降っていた。
どおりでトラップから伝わるはずの熱が冷たいはずだ。
なのに、赤い顔して帰ったってことはカジノで珍しく勝ってたくさん飲んだんだ。
まぁ、あの「たらいま〜」と千鳥足ですっごく酔ってるのは分かったけど。
…そんなことより、このままじゃ、動けないよ。
ふぅとため息をついて動ける右腕を上げて、トラップの頭を叩いた。
「ねぇ、ちょっとトラップ、どいてよ。扉早く閉めないと風邪ひいちゃう!」
「うぅー?」
「うぅー、じゃないわよ。ったく。」
顔を上げたトラップの顔、もう一度みたけど、やっぱり赤い。
それに、お酒の匂いがぷんぷんする。
「んもぅ!どれだけ飲んできたの!?」
「どれらけって、勝ったらけのんらんらよー。」
…まるでルーミィのしゃべり方じゃない。
飲みすぎて舌が上手く回らないんだ。
それにしても。
すごく勝ったんだったら…
たまにはおみやげのひとつくらい買ってくれてもいいのに。
寒いのに帰ってくるの待ってやったんだから。
にらみつけてやると、トラップがデコピンした。
「なんらよー、その目は?」
「痛いなぁ、もぅ。待ってやらなきゃよかった!」
「待ってろーなんれ、いってねー。」
「はいはい!悪かったですね!」
私は怒りながら開いたままの扉をバタンと思いきり閉めた。
やつあたりだ。こんな閉め方。
分かってる。
それにしても、寒い。
上着をアイツにかけたから余計に寒い!
どうして、トラップを待ってたんだろ。
どうして、トラップに上着なんてかけてやったんだろ。
ばっかみたい。
イライラしながら振り返ろうとするとトラップがぎゅうっと後ろから私を抱きしめた。
「ちょっと、なにすんのよ!」
「寒いから。」
「あのねぇ!もう、離してよ!」
「やら。」
「やらって…本当、ルーミィみたい!」
「うん、オレ、ルーミィでいいもんねー!」
そう言ってますますぎゅっと抱きしめられた。
……いいもんねーって良くないわよ。
……寒いのに顔が赤くなるじゃないの!
心臓が壊れそうなくらい動いてるじゃないのっ!
トラップは酔っ払ってからかってるだけ。
だから、だから、こんなドキドキしちゃダメだよ、私!
「パステルぅ…」
「な、なによ?」
平然を装ってトラップを睨みつけてやる。
するとトラップはちょっと視線を逸らして床を見ながらぼそっと呟いた。
「ありあとー。」
「へ?」
ふいうちの言葉にあっけに取られた。
ありあとーって、ありがとうってことよね?
もしかして、待ってたことへのお礼?
ふふ。お礼言うなんて可愛いじゃない。
こういう風に素直になるんだったら、ルーミィでもいいかも。
待っててよかったって思うじゃない。
ちょっと心臓の鼓動がおさまって、ニヤニヤとトラップを見た。
彼は視線を逸らしたまま再びぼそっと呟いた。
「………らいすきー。」
……………なんですと?
らいすき?
らいすきって、なに?
新しいお米の名前?
じゃないよね。
らいすきって、ルーミィもよく言うから分かってる。
『大好き。』
………大好き?
え、大好きって。
え、え、え!?
再び心臓の鼓動が早まる。
あー、そうだ!ルーミィの真似ね。
そうだ、そうに決まってる!
そう思っても、心臓の鼓動は早いまま。
どうして?
トラップは絶対からかってるだけだよ、パステル!
それに、らいすきって、パーティとしてってことよ!
そうよ。そうよ。
勘違いしてるんじゃないよ、私!
そう自分に何回も言い聞かせても、ダメ。
心臓がまるで自分のものじゃないみたい。
………どうしよう。
抱きしめられたままじゃ、聞こえちゃうんじゃない?
そしたらそしたら……やばいよぅ。
とまれー、とまれー!私の心臓!
いや、それじゃ、死んじゃうか。
「…らいすき……。」
私があたふたしてるのをよそにますますぎゅっと腕を強めるトラップ。
さっきまで寒かったのに。
すごく、あつい。
どうしよう。なんで!?
顔、絶対赤いよ。
こんな顔、みられたら、やばいよ。
そんなこと思ってたらトラップと目が合った。
うわあぁぁぁ!!
なな、どうしよ。
何か言って、ごまかさなくちゃ。
「わ、わわわ、わたしも!」
動揺を隠すため放った言葉。
その言葉を自分自身で理解して、心臓が爆発しそうになった。
な、なに言ってるの?私!
わたしもって!
あー、そうよ。だから、パーティとして私も好きってことだよ!
ど、動揺しすぎよ、私っ!
トラップはそんな私をじっと見たまま。
こ、これって見つめられてる?
い、いや違う。私が変なこと言ったから何言ってんの?って目なんだ。
「す、好きってあれよ?パーティとしてだよね?か、勘違いなんてしてないよ?」
ダメだ。声が裏返ってる。
どうしよう。どうしよう。
トラップはそんな私を見つめたまま、ふぅとため息をついた。
「勘違いしてる。」
急にしっかりした声。
「ふへ?」
トラップは腕を離し、貸した上着を私の頭にかけた。
「やる。」
そう言って私の手を取りなにかを握らせて部屋に帰っていった。
しっかりとした足取りで。
あれ?なんで、千鳥足じゃないの?
酔っていたんじゃないの?
あぁ、あれだ。
きっと、上着で視界が狭くなったからだ。
だからしっかりとした足取りに見ええただけ。
じゃなきゃ、じゃなきゃ、あんなこと、言わない!
私はそう自分に言い聞かせながら、トラップに握らされた物を見るために手を開いた。
「………なにこれ?」
手の中にはピーナッツが一つあった。
……な、なんでピーナッツ?
どういうこと?
おみやげのつもり?
わ、訳分からない。
やっぱり酔っ払ってるんだ。
抱きしめたのも、らいすきも酔っ払ってやった行動だもの。
真に受けちゃダメ。
勘違いしちゃダメ。
ぶんぶんと首を振ると共に落ちた上着。
だけど、拾う余裕なんてなかった。
ドキドキ心臓が跳ねて跳ねて止まらないから。
心臓が落ち着いて上着と一緒に落ちた物に気付いてまた心臓が跳ねるのはちょっと後の話。
|
|