〜かぜ〜

窓をあけると同時にふわりと少し暖かい風が入りこんだ。
もうすぐ春なんだ。
そう思うとちょっと心が弾む。
春の匂いを楽しもうと顔をだす。
うん、いい匂い!
 
「なぁーに、ニヤニヤしてんだ?」
「うわっ!びっくりしたぁ。」

いきなり現れて小さな窓から私と同じように顔を出したのはトラップだ。

「ちょっとぉー、狭いんだけど?」
「あ?あんたが太ったからじゃねぇの?」
「あーのーねー!」
そんなこと言われたら…ウエストが気になるじゃない!

私はウエストを見た。
…太った…かなぁ?

「…ウ・ソ。」
「トラップゥゥ?」
「けけけ!」

ったくぅ、何しに来たんだ、こいつ。
…わざわざからかいに来たんじゃないでしょうねぇ?
ありうるけど。

私がトラップを睨みつけてると、トラップはニヤニヤしてる。

「あーたこそ、なにニヤニヤしてんのよ?」
「ん?あんたのバカ面、おもしれーなぁって。」
「あー、そうですか。」

んもう。
どうして、そんなことしか言えないの?

「はぁ…」
ため息をつくと、トラップが頭に手を置く。
「…。なに?」
「……別に。」
「…………。」

ちょっとだけ沈黙。
ふわりふわりと春の風が私たちを包む。

「……たんぽぽが…咲きそうだったんだ……」
沈黙を破ったのはトラップだった。
「うん。」
「…そしたら。」
「そしたら?」

トラップを見る。
トラップも私を見てた。
ドキッとして目を逸らす。
だぁー、こういうの慣れてない。
…やっぱりトラップとはワーワー言っている方がいいや。

私がそう思ってると、トラップは私の頭から手を離した。
再び彼を見ると、トラップがニッと笑った。
………………嫌な予感。

「あんたのマヌケ面が浮かんだんだよ!」
「……!!」

トラップを叩こうとしたら、ベーッっと舌を出して逃げてしまった。

「トラップのバーカッ!」

私は負け犬の遠吠えをすると、鏡を見た。
だって、そんなにバカ面で、マヌケ面なのか、気になるじゃない。

………………。

…………………はぁ。



うん、バカ面でマヌケだよ。
今のこんな顔、アイツには絶対見せられない。


小さな小さなたんぽぽの髪飾りが私の頭に咲いていた。

END


ファイル作成日:2006年6月25日

(C)深沢美潮/迎夏生/角川書店/メディアワークス

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