〜かけあそび〜

「勝ったらなにくれんの?」
トラップの言葉に私はぐっと口ごもった。
「な、何って…トランプのゲームごときでなにか賭けるってこと?」
「あぁ。でねぇとやる気しねーもん。」
トラップはそういうと、ごろりと寝返りをして私に背を向けた。
むむむー、せっかく誘ってやってるのに、可愛げがない。
私は窓の外を見た。
あいかわらずざあざあと雨が降っていた。

そうそう。今日はすごいどしゃぶりなんだよ。
こんなどしゃぶりじゃ、冒険も出来ない。
…いや、出来ないこともないけど…ねぇ。
風邪引いちゃうのもばかばかしいし、今日は旅館でゆっくりすることにしたんだ。
ゆっくりってもただぼーっとするのも暇じゃない?
だから、旅館の人からトランプを借りてゲームをすることにしたんだ。
それで、部屋でごろごろしてるトラップも誘いにきたら、これだ。
「なにくれんの?」だって!
ったく。信じられない!

「もう、そんなこと言うなら別にいいわよ。トラップなんていなくて!」
私がそう言うと、トラップがごろんとまた寝返りをしてこっちを向いた。
「な、なによ?」
「いや、別に。ただ、オレがこういうこと言うって分かんなかったの?」
「は?」
「なにくれんのって。」
「そりゃ、予想くらいしたけど、まさか本当にいうと思わなかった!」
「ふーん。」
むっきー!
なによ、その態度。
誘わなかったら誘わなかったで色々言う…
…いや、言わないか。
そうよね。
トラップはトランプ遊び=ギャンブルなんだよね。
子供っぽい遊びなんて、興味ないんだ。
そんなことも分かってなかったんだな。私。
…別に、あいつのことなんて分かってなくても困らないけど。

…………
…………
ちょっと、言い過ぎたかなぁ?私。

「なにひとりでぶつぶつ言ってるんだ?」
怪訝そうな声なトラップ。
「…いや、うん。言い過ぎたかなぁって。」
「は?なんだよ?急に。きもちわりぃ。」
「き、きもちわりぃって!なにそれ!」
と、怒ってはっと我にかえる。

だめだめ!こいつとしゃべるとどうしても売り言葉に買い言葉。
喧嘩になってしまう。
わたしはプルプルと首を振ってトラップを見た。
彼は私を不気味なものをみるような目で見てる。
「はぁ。あのね、トラップ。」
「あんだよ?」
「その、いなくていいっていうのは、嘘だから。いないと困るから。」
私がそういうとますますトラップは私を怪訝そうな目で見る。
うー、そんな目でみなくても。
こちとら、反省してるんだからさ。
『おれも悪かったー』みたいなことでも言えばいいのに。
…そんなこと言ったら言ったで怖いけど。

そこまで考えて、私は気づいた。
そうか。
トラップも私が急に態度変えたから怖いんだ。
そりゃそうだよねぇ。
でも、私、勝手に遊びに誘って、断られたから怒るのって変だと思ったんだもん。
そして、いなくていいなんて言っちゃったこと、反省したんだもん。

そのこと、言いたかったから言っただけ。

私が一人でなっとくしてると、ふと目の前にトラップの顔があった。
「うわ!な、なに?急に?」
「熱でもあんじゃねぇーか?」
ごつんとトラップが私の額に自分の額をあててきた。
「な、ななな?」
「それとも、あれか?ちょっと早い四月バカ?」
トラップの怪訝そうな顔が至近距離にある。
どわー!
「ななな、んな、ことないわよ!」
「でも、顔赤いしさぁ。」
「と、ととと、トラップこそ、熱あるんじゃないの?」
「はぁ?」
「こんな変な心配、トラップしないもん!」
「あんだよ、それ。オレだって心配ぐれーすってぇの。」
そう言ってひょいっと私を持ち上げた。
「な、ななな、なに!?」
「あんた、トランプなんてしてねぇで寝てれば?」
そう言って、私をベッドに落とす。
「っつー!だ、だから、熱なんてないって!」
「じゃー、なんでいつもと違うんだよ?」
「あ、あーたねぇ。私だって反省くらいするし、謝ることくらいするわよ!」
「そうかぁ?オレにはしねぇと思う。」
…どういう意味だ、それ。
そりゃ、トラップに謝るとかあまりしないけど。
だからって、熱あるんじゃねぇかとか、あんまりじゃない?
私はむくりと起き上がってトラップの腕を引っ張った。
「うわ!なんだよ?」
「じゃぁ、どういったら、いいのよ?やっぱり、いなくてよかったとか?」
「そうそう。そう言いながらバターンって怒りながら扉を閉めていくのがあんたらしい。」
「ど、どーゆー認識よ、それ。」
私が怒ると、トラップはにかっと笑った。
「やっぱ、そうやって売り言葉に買い言葉してるのがらしいぜ?」
「むっきー!」
ぎりぎりとはぎしりして、ひっぱったトラップの腕をぎゅーっと両腕で抱きしめた。
「い、いてーって!やめろ!」
「やめるもんですか!これが、私なんでしょう!?」
私はそういいながら力をますます入れていると、部屋の扉が開いた。

「おーい、なにバタバタ…ってなにしてんだ、お前ら?」
クレイが怪訝そうな顔で私たちをみた。
「あ、クレイ、聞いてよ!こいつ、トランプゲームで勝ったらなにくれんのって言ったのよー!」
「だ、だからって、暴力でオレをねじふせようとすんのは、いけねーよなぁ?」
「な、なんですってー!それが私だって、あーた言ったじゃないの!」
私たちがまたバタバタと喧嘩しだすとクレイがはぁっとため息をつき、
「ったく、お前ら…他の人たちに迷惑だからやめろって!」
と、私たちを引き剥がし、こつんこつんと、げんこつをした。
「喧嘩するなら、外でやる!」
珍しくクレイが本気で怒ってる。
私とトラップはお互い目で会話した。

[やばいね。]
[あぁ、ここは素直に謝っとこうぜ。]
「「すみませんでした。」」
「ったく。わかればいいんだ。で?トラップお前、どうすんだ?」
「あ?」
「トランプだよ。おもしろいぜ?」
「勝ったらなんかくれんの?」
こりもせずにトラップが言うと、クレイは再びげんこつを彼におみまいした。
「パステル、トラップほっといて、またトランプしよう。」
そう言ってクレイが部屋から出る。
「う、うん。」
私はクレイを追いかけて止まって振り返った。
「…早くきなさいよ。」
「は?」
「あーたの口癖みたいなもんなんでしょ?勝ったらなにくれんのーって。」
「口癖って…」
トラップは私の台詞に気まずそうにぽりぽりと頬を掻き、
「ま、そういうことにしてやっか。」
と立ち上がって私の隣に来た。
「いくべ。」
「うん。」

本当、素直じゃないんだから。
でも、それがトラップなんだから、仕方ないよね!。

END


ファイル作成日:2007年2月18日

(C)深沢美潮/迎夏生/角川書店/メディアワークス

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