〜春雪〜
「ふぁー、雪だぁ。」
もう3月も終わろうというのに、雪だなんて…
そりゃあ、まだ寒いといえば寒い。
だけど、もう春なんだよね。
今日はちょっと薄着で買い物に着たのになぁ。
え?なんで寒いのに薄着かって?
ちょっと前にマリーナのお店で春用の服を買ったんだよね。
それがすごくかわいくて、早く着たかったんだもん。
出かける前はすごくいいお天気で、これなら暖かくなるだろうなって思ったのに。
なんで雪なんか降るかなぁ…ついてない…
私ははぁとため息をついて歩き出した。
両手に買い物袋を持ってるから手が冷たくても暖められない。
うー、上着でも着てくればよかったなぁ。
「くちゅん。」
あーーー。やばい、風邪ひきそう。
「あんたなぁ、あんでそんな薄着なんだよ。」
「ふゃ!あぁ、なんだトラップか。」
「なんだって、なんだよ。」
「べつに。」
クレイだったらよかったのになぁとか思ったのは内緒。
だって、クレイだったら荷物もってくれるだろうし。
そんなこと考えてたらふわりと肩が暖かくなった。
そして両手が軽くなった。
「?なに?持ってくれるの?」
「ぶぁーか、ちげぇよ。さっさとそれ、着ろ。」
トラップがあごで指したのは私の肩を暖めていた彼の上着。
「あら。やさしいじゃない?なにたくらんでるの?」
私はそういいながら、言葉に甘えた。
「ふふ、暖かい。」
「そ。ほれ。」
トラップはさっきとった荷物を一つ私の目の前につきだした。
「ありがと…あれ、もうひとつは?」
「両手ふさがってると、繋げねぇだろ?」
「は?」
「だぁら…もう、いい。」
そう言ってトラップはあいた片方の手で私の手を握った。
そして早足で歩き出した。
わたしはポカーンとしばらく口を空けながら彼にひっぱられるまま歩く。
「……ねぇ、ちょっと。早いよ。」
ようやく我に返って言った台詞にトラップはたった一言。
「うるせぇ。」
ったくぅ。
これがクレイだったらもっとさ、違う対応したんだろうなぁ。
きっと両方の荷物持ってくれてさ、足並みもそろえてくれてさ。
……だけど、それって甘えちゃってるってことだよね。
トラップは甘えるなって言いたいんだろうな。
だけど、優しいからほっとけないから、こんな風に手伝ってくれてるんだ。
不器用な優しさが…私は、嬉しい。
「ねぇ、トラップ。」
「あ?」
「ちょっと、手、離してくれない?」
私がそういうと、ぴたっと足を止めた。
ちょっと不機嫌そうな顔でこっちを振り向いた。
「あのなぁ、なんのために手ぇ繋いでるかわかる?」
「迷わないためでしょ?」
「そうそう。本当ならおめーの荷物なんか持ちたくねぇってのに…」
ブツブツ文句言い出した彼の言葉を無視して手を振りほどいた。
そして、すぐに指を絡めて手を繋ぎなおした。
「えへへ、こっちの方が、離れないし、暖かいでしょ?」
「………ばかか。」
そういって相変わらず不機嫌な顔のまま歩き始めた。
もっと早足で。
「…そんな早足じゃ転んじゃうよ。」
「うっせぇ。」
「転んだら、一番に被害うけるの、トラップだよ?」
「ふん、オレをなんだと思ってんだ。」
トラップの台詞に苦笑いした。
うん、トラップだったら、彼の方にずっこけても避けちゃうだろうね。
「……そんな早足じゃ……」
「あ?あんだって?」
「ううん、なんでもない。」
繋いだ手に雪が落ちて溶けていく。
春の雪はとても冷たくて。
まだ、一緒にいたいと泣いているように見えた。
END
ファイル作成日:2007年4月29日
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