〜猫背〜
私は周りを警戒しながらエベリンの町を歩いていた。
警戒している理由。
それは私の懐には大金が入っているのだ。
クエストで手に入れた大事な大事な大金。
といっても、おつかいクエストで手に入れたお金。
そこまで大金じゃないのかもしれないけどね。
それでもつもピーピーな貧乏パーティの私たちには大金なのよ!
それに…
私はちらっと懐を確認する。
新しいお財布。
赤いお財布。
つい、顔がニマニマしてしまう。
パーティーみんなからの気持ちがこもったお財布だもん。
なくしたくない。
「おい!パステル!んな猫背でキョロキョロして歩くな!泥棒みてーだぞ!」
数歩先を歩いていたトラップが振り返って叫ぶ。
泥棒のあーたに言われたくない…いやシーフだった。
トラップは銀行までの護衛役。
クレイやノルでもよかったんだけどね。
どちらかというとクレイたちも私と同じくぼんやりしてる気がしない?
いや、失礼かもしれないけどさ。
前に一度スリにあったときに助けてくれたのがトラップだし。
実績と経験有りでトラップを無理やりつきあわせたんだけど。
でも、やっぱりクレイかノルのほうがよかったかも…
「おい、ぼさっとすんな!」
トラップはわざわざ戻ってきてポカリと頭を叩く。
「ぼけっとなんかしてないわよ!それに猫背なのはスリにあわないように慎重に歩いてるの!」
「ぶぁーか!」
「ば、ばかって…!」
「んな歩き方してっと、私は大金持ってますよーって教えてるようなもんだぜ!」
そりゃそうかもしれないけどさぁ…
私がブツブツつぶやいていると、トラップは呆れた顔をしながら、手を出した。
「ほれ、財布。預かってやるから出しな。」
私はその手をパシリと叩いて、べぇっと舌をだした。
「あんだよ。かわいくねーの。」
トラップは叩かれた手をぶんぶんとふりながら、ため息まじりに言葉を続けた。
「ババアみてぇな歩き方だけはや・め・ろ。」
「ば…ババアて…あのねぇー…」
文句を言おうとする私の声にトラップは声を重ねた。
「ババアみてぇに歩くのは、あんたがババアになってからだ。それまではシャキッと歩け。」
「なに、それ。」
「だぁら……今はババアと歩きたくねぇっの!」
そういうとトラップはスタスタと歩きはじめた。
「あ、ちょっと!待ってよ!」
私は猫背をやめた。
そうしないと、トラップの歩調に間に合わないから。
「んもう!歩きたくねぇて、世の中のおばあさんに失礼よ!」
「だぁら…」
トラップが何か言おうとしたけど、今度は私が声を重ねた。
「いつかはトラップだって、おじいさんになって猫背で歩くんだから!」
そう言って、またべぇっと舌をだしたら。
彼はニヤリと笑ってこう言った。
「そん時はあんたもババアじゃん。」
むきー!
なんなんだ、もう。
ただ銀行行くだけでこれだけ口げんかなるなんて!
やっぱりクレイたちにすべきだったわ!
ぶうっとほっぺをふくらませると、トラップはポンと私の頭に手を置いた。
「そん時は、一緒に猫背で歩こーぜ。」
END
ファイル作成日:2008年2月24日
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