〜まるで…〜

とある村に立ち寄った私たち。
そこでは小さなお祭りが開かれていた。

小さくても、何個かお祭りの屋台屋さんがあって。
いつの間にか、みんなそれぞれ自由行動になってたんだ。

私はクレイとルーミィとシロちゃんと一緒に歩いている。
定番の焼きそば、たこ焼き、綿菓子なんかが売られていて、いい香りが私たちの食欲を誘う。
ルーミィなんて、人差し指くわえてヨダレたらしてる。
あーあ。何度見ても可愛い顔が台無しというか…
いや、これもかぁーいいんだけどね。

「なにか食べるか?」
そんなルーミィを肩車してたクレイが彼女に聞くと、目をキラキラ光らせてうなずいた。
「あおね、やきしょば!あと、りんごあめも!」
「はいはい。じゃ、おれ、ルーミィと買いに行くけど…」
「うん、ありがとう!私は…ちょっと見たい所があるから。」
「迷子になるなよ。」
「んもー、クレイもあいつみたいな言い方しないでよっ。」
ぷぅっと頬を膨らませると苦笑いして私の頭をぽんぽんとたたいて、焼きそば屋に向かって行った。


私は見送った後にすぐ後ろにあった屋台を覗く。
そこにはルーミィくらいな小さな子供たちがたくさんいて、金魚とにらめっこしている。


そう、これもまたお祭りの屋台定番。
金魚すくい。

私は子供たちの隙間から金魚を見つめた。
赤くて綺麗な金魚。
ポイから華麗にするりするりと逃げるさまは、まるで…

「おい、金魚なんて飼えねぇだろ。」
ぽかり
いきなり後ろから叩かれる。
こんなことするの、あいつしかあり得ない。
「ちょっと!いきなりなにするの!トラップ!」
私が振り向くとべぇっと舌をだした赤毛のあいつ。
太陽にてらされた髪がキラキラ光らせて、にかっと笑った。

………

「……いいなぁ。」
「はぁ?」
私がいきなり変なこと呟いたからトラップが怪訝な顔をした。

そんな彼を見上げ、頬を膨らませる。
「あんた、そんなに金魚が飼いたいのか?」
「ち が う !」

……。
ばぁーか。
分かってない。
金魚が飼いたくて見てたんじゃないよ。

ただ、目に入ったの。
綺麗な綺麗なあかいろ。
オレンジがかっていて、キラキラ光っていて。
捕まえようとしても逃げられて。

まるで、トラップみたいだなんて。
そんな風に思っちゃって。
でも、そんなこと、トラップに言ったら怒られちゃう。
………。
それに、言えない。
なんだか、変な気持ち。

なんだろう、この気持ち。
ふわふわして、すぐに溶けてしまいそうで、甘い…
「……綿菓子。」


「はぁ?」
また、私が変なこと言ったからまた怪訝な声。

変…変だよね。
こんな、綿菓子みたいな気持ち。
なんだろう?おかしいなぁ。

きっと、きっと。

「綿菓子、食べたい。」
私のおねだりに、トラップがため息ついて、頷いた。

「わぁーったよ。その後、射的でも行くか!」
そう言って彼が私の手を引っ張っていく。
「奢ってくれるの?」
「ぶぁぁーーか。あんたの奢り!」
やっぱりね。
だけど…嬉しいから、いいか。


END


ファイル作成日:2008年10月19日

(C)深沢美潮/迎夏生/角川書店/メディアワークス

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