〜おいしいの?〜
「ん〜、やっと終わったぁぁ…!」
ふぅっと一息ついて、背伸びをすると体がぎちぎちとなった。
うーむ、マッピング修正に思ったより時間かかってしまったみたい。
窓から見える景色がもう夕焼け空だもん。
「……って、あ!!洗濯物!」
あちゃあ!すっかり忘れてた。早く取り込まないとせっかく乾いてても湿っちゃう!
わたしは慌てて共同ベランダへ向かうと、ノルがせっせと洗濯物を取り込んでいた。
「ご、ごめん、ノル!!」
「かまわないよ。」
にこっと笑うノル。うぅ、本当、よく気がきくなぁ。
わたしも残りの洗濯物をかごへ入れていく。
ふと、庭のほうに目をやるとみんなのんびりとくつろいでいた。
クレイはせっせと剣のお手入れ中。
そのクレイになにやらキットンが話していて、ルーミィとシロちゃんもそれをふんふんと聞いているようだ。
トラップはその近くの木の上でお気に入りの帽子を顔に乗せて器用に寝転んでいる。
「キットン、何を話してるんだろうねー。」
「一緒に、行ってみよう。」
「うん、そうね。」
わたしとノルは取り込んだ洗濯物を部屋に入れて、一緒にみんなの所へ向かう。
近くにいってみると、あ、話してるだけじゃない!
キットンの前にちいさな籠があって、その中にクッキーがあるじゃないか!
「ずるーーい!!わたしたちにもちょうだいよ!」
「あ、パステル。仕事終わったんですか?」
「うん。それより、何よ?そのクッキー。わたしたちにもちょうだいよ。」
「夕飯前なのにいいんですかー?太りますよ?」
「う…ひ、ひとつだけ!」
「わかりました、ぐふふふふふ。」
な、なんだ、そのにやけた顔と笑いは…
不気味に思いながらも、籠から一つクッキーを取る。
どうやら手作りみたいで可愛らしい花形だ。
ノルのはきのこの形をしている。
ぽいっと口にいれるとサクッとした歯ごたえとともに甘みが口いっぱいに広がる。
「んーー!おいしーい。ね、これどうしたの?」
「ぐへへへへへへ。スグリからの、贈り物ですよ。」
「そうなんだぁ。」
「ふふ、では、あななたちにも聞いてもらいましょうか。」
さらに不気味に笑うキットン…。
な、なんか、いやな予感……
「ぱぁーるもきくお!きっとんの、すぐいらぶらぶ話らお!」
「らぶらぶ話デシ。」
あー、いつもの、スグリ自慢ですか。
そりゃ、自慢したい気持ちはわかるよ?
実際可愛いし、クッキーもおいしいけど。
けど……もう耳タコだ。
そんなわたしの顔をみて、クレイが苦笑しながらいった。
「もう、ごちそうさまーって感じだよな?」
「うんうん。おなかいーっぱい!」
「げへへへへへ!」
「ねぇねぇ、ぱぁーるぅ。」
「なぁーに?」
「らぶらぶって、おいしーのかぁ??」
「ふへっ!?」
いきなり突拍子もない質問に変な声がでてしまった。
「らって、おなかいっぱいって、ごちそーさまっていったお?」
キラキラと真っ直ぐに期待に満ちた目。
うわー!ど、どうしよう!
わたしは、とりあえず勘違いを直そうと説明しようとしかけた時、上から声がした。
「おー、うめぇぜぇ?あまーくて、あついんだぜ?」
「ちょ、トラップ!?」
いつの間に起きてたのか、見上げるといたずらを思いついた少年の笑顔があった。
これは………ルーミィをからかって遊ぶつもりだな。
「あのねー!トラップ、変な事言わないでよねー!」
「けけっ!でも、ラブラブな話してる時、あまいとか、あついとか言うじゃねぇか、なぁ?ルーミィ?」
「しょういえば、いうお!」
「言うデシ!」
あーあーあーあ。
ピョンピョンと飛んで喜んでる。
きっと「らぶらぶ」っていうあつくてあまい食べもの想像してるんだ。
そんでこれは…絶対つぎにあのフレーズが来るぞ!!
「ぱぁーるぅ!おなかぺこぺこだおう!らぶらぶ、たべたいおー!」
だぁぁぁぁ!やっぱりぃぃ!
ってか、おなかぺこぺこってルーミィ今もクッキー食べてるじゃない!!
わたしが頭を抱えてると、クレイが助け舟をだしてくれた。
「おいおい、トラップ!どうするんだよ!」
「ひっひっひ!クレイちゃーん、おれがどうにかすると思ってるのか?あめぇな!」
「あのなぁ!!」
あーあ、いつものくっだらない喧嘩がはじまるぞ、って思った瞬間。
「しょっか!とりゃーは、くりぇーがらぶらぶなんらね!」
どしゃーーーーーん!!!!
大きな音とともにトラップが木から落ちて地面に埋まった。
あーあ。
「あまいって言ってたデシもんね!」
シロちゃんも同意するもんだから、ますます深く地面に埋まりそうな勢いだ。
クレイは苦笑しながら「そっかぁ、おれにラブラブなのかぁー!」と頭をかいた。
「ぎゃはははは!ではわたしもラブラブですねぇ!」
「おれも、かな?」
キットンもノルもそれに便乗していくもんだから、トラップは苦虫をかんだような顔!
その顔が面白くってみんなで顔を見合わせて笑いあう。
ルーミィをからかおうとするからよ!
自業自得!
「しょっか、じゃ、ルーミィもらぶらぶ?あまいんかぁ?」
「あまいデシかね?」
ルーミィとシロちゃんは自分の腕をなめた。
「あまくないねー。」
「ないデシ。」
「じゃ、とりゃーがらぶらぶ?あまい?」
「あまいデシ?」
そう言って二人は地面に埋まっているトラップの腕をなめた。
「あまくないねー?」
「あまくないデシ。」
ははは、もうトラップは何も言えない!って感じ。
仕方ないなぁ、助けてやるか。
「あのね、ルーミィ違うのよ?」
間違いを正そうとして声をかけたわたしの顔をルーミィが見上げ、ぱぁっと目が輝いた。
な、なに?なに?その目…?
「しょっか!ちゃうよねー!とりゃーは、ぱぁーるがいちばん、らぶらぶだぁ!!!」
「そうデシ!トラップあんちゃん、一番あまいって言ってるデシ!」
……………
ぜぇぇぇぇぇぇぇたい、ちがうぅぅぅぅぅぅぅ!!!
END
ファイル作成日:2010年8月28日
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