〜できないこと〜
 
今日はバイトも休みだから、冒険時代に書いた過去の原稿の整理をすることにした。
推敲する前のものだから、あったことをそのままに書いてあったりするんだよね。
ちいさな付箋でメモしたりしたものもある。

ふと、奥の方から出てきた一枚のメモに手が止まる。
それは初めてジュン・ケイに会った時の事をメモしたもの。
結局その時、わたしがジュン・ケイに抱いた感情はあいまいに書いたんだよね。
正直に書くのも恥ずかしいし。
しかし…過去の自分の、初恋の自分のメモを読むと…照れるようななんというか、不思議な感じ。

「あんだ、おめぇ?一人で百面相して?」

同じようにバイトの休みのトラップはカバンの整理をしていたんだけど。
その手を止めて、怪訝な顔してわたしを見てる。

「べつに。なんでもないよ。」
そう答えてもなお、トラップは怪訝な顔のままだ。

言えるわけないじゃないか。
初恋の事を思い出してましたー、だなんて。
からかわれるだけか、バカにされるだけだろうし。

あ、でもそういえば、ジュン・ケイに恋した事、トラップ気づいた…んだよね?
いつ分かっちゃったんだろう?
ううん。どうして気づいたんだろう?
顔に出てたとしたら、恥ずかしいな。

トラップに、「憧れてたんだろ!?」なぁんて指摘されるとはあの時思ってもみなかった。
鈍感未熟男だ〜って思ってたんだもん。
しまいにゃ、無難に釣り合う相手にしろっていらないアドバイスとかしてくれちゃったりしてさ…。
「……ねぇ、トラップ。」
「んあー?」
「わたしが釣り合う無難な相手って誰になるの?」
「……はぁ?なんの話しだ?」

しまった。
さっき言えるわけないと思ってたのに。
つい、気になって聞いてしまった。

「いや、やっぱりいいや。」

どうせ、きちんと質問しても変な相手言うんでしょ?
例えば、告白してきたボッシュとかさ。
わかってるもん。
わたしが、一人トラップの答を導きだして膨れっ面になるのを見て、彼はますます怪訝な顔をして言った。

「やっぱ、おめぇも一応女なんだな…唐突に話が始まって、終わって、勝手に怒って…。訳わかんねぇ。」
「な…!一応ってなんなのよ!?」
「そのままの意味ですけど?」
「トラップのばか!」

ムキー!!

こいつ、やっぱり鈍感未熟男だ!
こいつに恋だ愛だなんて話を振ると絶対バカにした対応されるんだっ!!

「なに、おめぇ、怒ってるんだ?」
「怒るに決まってるじゃない!一応女、とか言われて怒らないほうが変だもん!」
「じゃあ、なに?おめぇ、女扱いして欲しいの?」
「そりゃあ、そうよ。女の子だもん!」
「……俺に?」
「当たり前じゃない!!」

こうなると売り言葉に買い言葉だ。

「ま、トラップにできるわけ、ないでしょうけどっ!!」
「へぇへぇ。そうかもしれませんねー。んで?おめぇはどんな扱いして欲しいの?」

なんだか、めんどくさそうな聞き方。
おまけに再びカバンの整理をするために目線を下に向けちゃってるし!!

ムキー!!
なによ、なによ!!

こうなったら、トラップに、意地でも女扱いされてやる!!

……。
しかし、女扱いってどんな風にされるんだろ?
むむむ…しまった。
怒ってみたものの、どうされたいのかとか、分かんないよね。

お姫様だっことか?
…いや、それはなんか違う。

そもそもトラップって女の子に対して女の子扱いしてる時ってどんな時だ…?

一生懸命思い出してみても、でてくるのは、可愛いグラマラスな女の子をナンパしてる姿くらいだしなぁ…


「な、なんぱ!」
「はあああああああ!?」
ガチャンとトラップの手にあった盗賊七つ道具の一つを落とし、視線が再びわたしに向けられた。

その顔はまるで…。
いや、絶対にわたしをバカにしてる顔だ。


「なに、おめぇ?オレにナンパされたいの?」
「違うけど、えと、トラップの女扱いってそれかなって。」
「…ばっっっっかじゃねぇの?」

ムキキー!! やっぱりバカにした!!
でも仕方がないじゃない!
そういうのよく分かんないんだし!


わたしが顔を真っ赤にして怒ってるのを見て、トラップはため息をついた。

「しゃーねぇなぁ…。やってやっか。」
「ふへっ!?」
「ナンパだろ?オッケー。まずは…。」

じーっとトラップがわたしを頭から足の先までを見る。
むぅ、何ていって、ナンパするんだろう?

「………。ダメだ。」
「ふへっ!?」
真剣な眼差しで、わたしを見るトラップ。
な、なんだなんだ?

「……ない。」
「なにが?」
「……むね。」

問答無用でトラップの頭を叩いてやる。

「トラップのバカ!」

そのどこが女扱いなのよ!
やっぱり、トラップはグラマーでセクシーな人がいいんだ!

……分かってたたことなんだけどさ。
再認識させられて、なんで、こんなに胸がギュゥっとするんだろう。
トラップの好みとか気にしなくてもいいのにさ。


「大体さぁ、ナンパってぇのは知らねぇ相手に声かける行為じゃねぇか。」
「……。」
「それに、おめぇも知ってるだろ?オレはただ声かけてるだったり、情報仕入れているだけでさ。」
「うー。そういえば、本気で言い寄られたら逃げてるよね。」
「そそ。だあら、女扱いとは違うと思うぜぇ?」

どこか、何かを教えようとしてるような。
だけど、たぶん、それは気のせいだろう。

「でもさぁ、女扱いしてって言ってるのに、逆に酷いこと言うなんて、なんで?」
「…なんでって…。」
「これがクレイだったらさ。きっと素敵にしてくれるんでしょうけど。」
「……じゃあ、クレイに頼めばいいじゃねぇか。」

トラップはぶすっとして、散らばったままの七つ道具を、ささっと片付けて、立ち上がる。


「ちょっと、ねぇ、逃げるの?」
「……素敵な、女扱いされたいんだろ?クレイ、呼んできてやるよ。」

わたしは思わず、立ち上がり、部屋を出て行こうとするトラップの腕をつかんだ。


「違うよ!言いたいのはそうじゃない!それに、それじゃあ、意味ないの!トラップじゃなきゃ!」
「…はぁ?」
「だ、だってほら!喧嘩の発端思い出してよ。トラップ、あなたが、わたしを、女扱いしないから、わたし、怒ってるんだし。」
「……。」
「……だから、えっーーと……。」


いつの間にか、じーっとわたしのほうを見ているトラップにドギマギしてしまう。

「クレイじゃ、怒りはおさまらないというか…、…う、ごめん。意地です。」


あまりにも、トラップが不機嫌で怒ったようにみるから、つい謝ってしまった。
あぁ、ダメだ、もう。
ギアの時にみた、あの不機嫌な顔や、しばらくギグシャクしてしまったことを思い出してしまう。


『ジュン・ケイに恋したことがどうしてわかったの?』
『トラップが思う、わたしにとって無難な男ってどんな人なの?』

そう、本当のこと、聞けばいいだけな話なのにさ。
それがなぜかできなくて、くだらない喧嘩になって、トラップとギグシャクしたくないもん。


つかんでいたトラップの腕を離し、彼を見上げた。
「ごめんね、困らせた。他の子にはできるけど、わたしには女扱いできないってのは分かったよ。」
「………。」
「だから、えっと、うん。いつも通りでいいよ。いつも通り。」

そういうと、彼は盛大にため息をついた。

「……しゃぁぁぁぁぁねぇなぁぁ……。」
「え?」
トラップはぐいっと、わたしを抱き寄せ、耳にささやいた。
「…他のやつには女扱いしろとか絶対いうなよ?おめぇ、女ってこと、意識しとけ、ばぁーか。」
「え?あ、う、うん、ありがとう。分かった。」
「……これ以上は……またでいいか?」
なんだかちょっと、困った顔して聞くもんだから、笑っちゃいそうになるのを我慢した。

せっかく、頑張ってくれたんだから、機嫌損ねちゃだめだよね。

それにしても、わたしに対しての精一杯の女の子扱いな行動で、台詞なんだろうけど………
えっと、うっと、えーと。うーーーん……



わたしが、トラップ以外の人に女扱いしろーだなんて、言う必要ないと思うんだけどなぁ。


END


ファイル作成日:2014年10月13日

(C)深沢美潮/迎夏生/角川書店/メディアワークス

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