〜〇〇しないとでられない部屋〜
 
「トラップにしては珍しいわね。」
「うっせぇ。だいたいなんで、おめぇ全然関係ない方向のここに入ったんだ?」
「仕方ないじゃない!お城ってどこも同じように見えるし…。それにそれを言ったら、トラップもでしょお?」
「うっせぇな、黙ってろ。」
 
ぶぅぅぅ!
 
 
今、わたしとトラップは閉じ込められてる。
なんでそうなったかって?
 
わたし達パーティーは、アンジェリカ王女の別荘(別城?)に招待されて遊びに来たんだ。
んで、アンジェリカ王女の唐突な思いつきで宝物探しゲームをすることになったのだ。
キットンが考えた謎をあらゆる部屋に置いてね。
謎を解いて順番通りにいくと宝物のある部屋にたどり着くというものだ。
 
その謎、しっかり考えられてて結構難しいんだけど。
わたしにとって一番難しいのは、このお城。
敵に攻めいられないように入り組んでいるし、どこを見ても同じように見えるでしょ?
方向音痴なわたしにとっては、最大の謎だよね。
 
当然のごとく迷ってしまい、たどり着いた部屋には謎すら置いていない部屋で。
だけどね、なぜかそこにトラップがいたんだよね。
ガサガサと何かを探してる背中はまるで泥棒。
いや、トラップは盗賊だけども…
まさかね…
 
「ねぇ、トラップ、なにしてるの?」
わたしが声をかけると、びくりと肩を動かし、なんとも言えない表情でこちらに振り返った。
 
「…あぁーた、まさか、盗みとかしてないでしょうね?」
 
と尋ねると同時にガチャリ、と嫌な音がした。
 
「え、なに?鍵のかかるような音しなかった…?」
「…ちょっと待て、オレが調べる。」
トラップはそう言うと、入口の扉を調べた。
 
「…まずいな、魔法鍵だ…」
「ええええ!ちょっと、それ解除できるのぉ!?」
「さぁな。」
 
返事の内容とは違って、なんだか、楽しそうな表情。
面白いおもちゃを見つけた子供みたい。
 
だけども、その表情も時間と共に曇りはじめて。
 
「トラップにしては珍しいわね。」
「うっせぇ。だいたいなんで、おめぇ全然関係ない方向のここに入ったんだ?」
「仕方ないじゃない!お城ってどこも同じように見えるし…。それにそれを言ったら、トラップもでしょお?」
「うっせぇな、黙ってろ。」
 
ぶぅぅぅ!
 
ってなわけで。 こうなったら、トラップに任せるしかないんだけど。
魔法鍵だなんて、道具じゃ解除できないような…
 
「そういえば、なんで鍵、すぐに閉まらなかったのかな?」
「ん?」
「怪しい人が入ったら閉まる鍵なら、トラップが入った時点で閉まるじゃない。」
「怪しいって、あんだよ。」
「怪しいよ、本当なにしてたの?」
 
トラップはポリポリっと指で頭をかいてため息を大きくはいた。
 
「だまっとけよ?」
「うん。」
「アンジェリカに、頼まれたんだよ。」
「なにを?」
「昔、この部屋で無くした人形を探してくれーって。」
「え!そうなの?だったらみんなに言えば良かったのに!大勢で探した方が早いのに!」
「オレもそう思ったんだけどさぁ…、なんでもこの部屋、へんな魔法が仕掛けてあるとかで、黙って探さないと…」
 
と話しながらガクッと肩を落とした。
 
「そうだった。この部屋、言葉が鍵とか言ってた。」
「言葉?」
「そう。なんかの言葉で鍵が閉まって、んで解除もなんか言葉らしい。」
「そ、そうなの?じゃあ、その言葉…を忘れたから、頼まれたのね。」
「ああ、万が一、閉まっても、オレなら開けれるでしょーって。」
 
はあってまたため息をついたトラップは今度は部屋中を念入りに調べはじめた。
 
「あ、あった。」
「え、なになに?」
 
トラップが指した所を見ると、○○をしないと出られない部屋と書かれてある。
  
「ちょっと、ねぇ、大事な部分が消えちゃってるじゃない!」
「だな。」
「んもー!どうすんのよぉ?」
「さぁな。」
 
ああ、もうっ!
あ、でも○○しないとっても、行動じゃなくて言葉だ。
言葉で閉まって、言葉で開くって言ったし。

「…トラップのバァーカ。」
「は?なんだよ。」
「鍵の言葉探しみたいな?」
「おめえなぁ、なんで城に仕掛けた鍵の解除の言葉がオレへの悪口なんだ?」
「えー、だってぇ、閉まった時、トラップへの悪口だったじゃない。」
「はぁ?」
「確か、盗みに入ったんじゃあって…」
 
わたしが言うと同時に再びガチャリ、と音がした。
 
「あ、開いた…わけないか。」
トラップがノブを回したけれども、扉は開かない。

「…盗み。」
トラップがぼそりとつぶやくと、またガチャリ。
 
「閉まる言葉は分かったな。」
「うん。でも、何回も閉まるんだ。」
「だな。やっべ、開ける言葉もそれだけ言わねーといけねぇかも。」
「ええええ!」
 
ヤバい、早口言葉とかだったら、かんじゃう。
 
「とりあえず、言葉を考えようぜ。」
「そ、そうね。」
「○○しないと、って書いてるんだから言葉ですることだろうな。」
「言葉ねぇ…、プロポーズとか?」
 
そう言うとブッとトラップが吹き出して、目をぱちくりとさせた。
 
「なによぉ?その目はぁ?」
「いや、色気もねぇ、おめぇから意外な台詞が飛び出してきたから…」
「ちょっと、なにそれ!私だってプロポーズとかされてるんだからね!」
「ボッシュにな。」
「いや、そうだけどもぉ…。」
 
ギアにもなんだけども、まあ、それは言わないほうがいいよね。
なんかギアの話になると、たまに不機嫌になるからな、トラップ…
 
「あのね。この部屋、メルヘンチックじゃない?アンジェリカの趣味かなーとか思ってたんだけど、違うのかも。」
「誰の趣味だよ。」
「昔の照れ屋さん。」
「は?」
「あなたに盗まれた心の鍵を開けてくださいー、みたいな?」
「……。」
 
呆れたような顔でこちらをみるトラップ。
ぐぬぬ。
自分で言ったとは言え、ドリームすぎる台詞だったか。
恥ずかしい。
 
「と、とにかく!やってみましょ!」
「えぇー…。」
「んもー!言ってみるわよ!」
 
大きく息を吸って、深呼吸。

「結婚してくださいいい!」


シーーーン


「はずれだな。」
「ううぇぇ…。めちゃくちゃ恥ずかしいじゃんー。」
「別に鍵解除のためなんだし、そんな恥ずかしがらんでも…」
「そうだけどさぁ…。トラップは何か思いついた?」
わたしが訪ねると、チッチッチッと指を振って偉そうに笑った。

「おめぇは、ぶっとびすぎなんだよ。プロポーズの前に言うことがあるだろ?」
「えー?なにを?」

尋ねると、トラップはわたしの手を取ってニヤリと意地悪そうに笑って目を見つめてきた。
どうせまた、変なこと、言うんじゃあないでしょうね、トラップ…


「すきだ」


ガチャリとかぎが開く音がした。


END


ファイル作成日:2019年 9月29日

(C)深沢美潮/迎夏生/角川書店/メディアワークス

BACK